PCOSって卵子の質に影響する?(卵子の成熟度・受精率)

「PCOSがあると卵の質が低下するって聞きますが、それで妊娠しないんですか?」という質問をよく受けます。基本はPCOSの一般不妊治療における出産までの期間の延長は、排卵回数の少なさ、タイミングの合わせづらさなどによるというのが通説ですが、それ以外にも妊娠率の低下を示唆する論文が多くあります。
PCOS患者は子宮内膜受容性の変化による着床率の低下・流産率の上昇はありそうですが、卵子自体の質の低下がるかどうかは意見が分かれています。

最初にPCOSが卵の質が低下すると言い始めたのは、体外受精での受精率の低下を示す報告が続いたからです(Ludwig Mら. 1999; Plachot Mら. 2003)。
現在では着床前診断を実施したり、凍結融解胚移植を選択することができますが、2000年前後は卵巣刺激を行い、新鮮胚移植した成績を見て判断せざるを得なかったため、現在と状況が異なります。

では、最近の報告でPCOS患者に対する卵巣刺激で成熟率や受精率・良好胚数を比較した報告がないかな、と調べたところHMGアンタゴニスト法(HMG150-225単位、hCG10000単位でトリガー)で検証したものがありましたので、ご紹介いたします。

≪論文紹介≫

Nikbakht R, et al. Fertil Res Pract. 2021. DOI: 10.1186/s40738-020-00094-z

2017年10月から2019年9月まで不妊クリニックに来院したPCOS女性を対象に、ケースコントロール研究を実施しました。年齢、流産歴、不妊原因などは患者カルテから抽出しました。TSH、AMH、LH、FSH、プロラクチン、脂質、血糖値を測定しました。
結果:
PCOS患者45名(平均年齢31.93±5.04歳)、非PCOS患者90名(平均年齢30.8±5.38歳)を対照群としました。回収卵子数はPCOS患者の方が有意に多くなりましたが(p = 0.024)、成熟卵子割合(MI、MII、GV)には両群間で有意な差はありませんした。有効胚数とグレードも両群で有意な差はありませんでした。PCOS患者の臨床的妊娠率は有意に低く(p = 0.066)、回収卵子数は女性年齢(r = -0.2, p = 0.022)およびAMH値(r = 0.433, p < 0.0001)に有意な相関が見られました。コレステロール値は、MI卵子数(r = 0.421, p = 0.026)と相関し、MII卵子数は年齢(r = -0.250, p = 0.004)およびAMH値(r = 0.480, p < 0.0001)と相関しました。ROCカーブ分析では卵子数のカットオフ値は10.5以上でありAUCは0.619±0.054(感度55.56%、特異度69.66%)でした。
結論:
PCOS患者の回収卵子数は非PCOS患者に比べて有意に多いものの、卵子の質には統計的な差がありませんでした。

≪私見≫

PCOSで成熟率や受精率が低下するのは、OHSSリスクを減らすため、刺激を途中で弱めてしまったりすることによる医療介入のダウンレギュレーションが大きく関与するのではないかと思います。PCOS患者に対して卵巣刺激を行う際には、OHSSリスク回避のために成熟率や受精率が落ちると判断してでも卵巣刺激を弱める可能性があることを最初に話をしておくことが必要だと思います。
また脂質異常は卵子の染色体異常とは別に卵子細胞質のqualityのマーカーとして最近注目されはじめたテーマです。こちらも注意してフォローしていきます。

文責:川井清考(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

亀田IVFクリニック幕張