精索静脈瘤手術は精子DNAダメージを改善する(論文紹介)

精索静脈瘤手術は夫婦として時間的にゆとりがある場合は、先に手術を実施することをお勧めしますが、術後、精液所見の改善まで3-6ヶ月かかることなどを加味すると、一般不妊治療で妊娠しない場合に体外受精を先に行うか、精索静脈瘤手術を先に進めるかを迷うことが多くあります。一般的な精液所見に加え、DNAフラグメンテーションテスト(DNA断片化試験)も判断材料に加わるとより患者様にお話しやすくなります。
その上で、手術をしたらDNAダメージがどの程度軽減するのか目安となるシステマティックレビューをご紹介いたします。

≪論文紹介≫

Lira Neto FT, et al. Fertil Steril. 2021.DOI: 10.1016/j.fertnstert.2021.04.003

精索静脈瘤手術をうけた不妊男性を対象とし術前後のDNAフラグメンテーションの変化を検討しました。PubMed/Medline, EMBASE, Cochrane's central database, Scielo, Google Scholarを用いて系統的検索を行い 2021年1月までに報告された関連研究を同定しました。ランダム効果モデルを用いた加重データのメタ解析を行いました。
結果は加重平均差(WMD)と95%信頼区間(CI)を計算しました。サブグループ解析は、DNAフラグメンテーションテストの方法、精索静脈瘤手術の方法、術前のDNAフラグメンテーショレベル、精索静脈瘤のグレード、フォローアップ期間などを検証しました。
結果:
1,070人の患者が参加した19の研究からDNAフラグメンテーションを検討しました。精索静脈瘤手術は、術後のDNAフラグメンテーションの低下と関連していました(WMD 7.23%;95%CI:8.86 - 5.59;I2 = 91%)。検査方法(SCSA,、TUNEL、 SCD テスト)はどの方法でもDNAフラグメンテーションの低下を認めました。サブグループ解析の結果、治療効果は術前DNAフラグメンテーションが高い方が顕著に低下を認めました。精索静脈瘤グレードが術前後のDNAフラグメンテーションの低下と相関はしていませんでした。
結論:
精索静脈瘤がある不妊男性は手術を実施するとDNAフラグメンテーションが低下することがわかりました。

≪私見≫

同じようなシステマティックレビューがあります。これらを総合的に判断すると精索静脈瘤手術はDNAフラグメンテーションを3-8%低下させます。

  1. 6つの研究と177人の患者
    Wang YJ, et al. Reprod Biomed Online 2012
    3.37%;95%CI:4.09 - 2.65;I2 = 49%
  2. 11の研究から394人の患者
    Qiu D, et al. Andrologia 2021
    5.79%; 95% CI: 7.39 - 4.19; I2 = 73.7%)
  3. 7つの前向き研究と289人の患者
    Birowo P, et al. Basic Clin Androl 2020
    6.86%; 95% CI: 10.04 - 3.69; I2 = 82%

術、DNAフラグメンテーションが高い不妊男性の方が低下は大きくなります。
今後、DNAフラグメンテーション検査と精索静脈瘤手術を患者様にどのように系統立てて説明・実施提供するか、模索していくためにも引き続き検討が必要です。

文責:川井清考(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

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