男性不妊(精索静脈瘤)の管理指針(ASRMの専門家委員会の意見をふまえて)
ASRMの専門家委員会が2014年に精索静脈瘤と不妊について見解を出しています。(Fertil Steril. 2014. DOI: 10.1016/j.fertnstert.2014.10.007)
精索静脈瘤の治療適応ですが、以下の4つを満たすことが好ましいとされています。
①夫婦が不妊であること
②女性に妊孕能がある、もしく治療可能な不妊原因があり時間的にゆとりがあること
③精索静脈瘤が容易に触知できること(Grade II以上)
④精液所見に異常があること
精索静脈瘤の手術、人工授精、体外受精/顕微授精(IVF-ICSI)は、ともに精索静脈瘤の治療方針となります。どの治療を選択していくべきかについては、精索静脈瘤以外の不妊原因、そして精液所見によります。手術は精液所見を改善させる方法ですが、術後の精液所見が改善するまでに3~6ヶ月はかかるため、夫婦の年齢を含めて、時間的ゆとりがあるかどうかが大切になってきます。
精索静脈瘤の手術を選択するメリットは、精液所見が改善することにより体外受精を回避できるのであれば、妊娠までの費用対効果がよくなる可能性もあります。
精索静脈瘤の手術後の改善指標は予測するのは中々難しいですが、精索静脈瘤のグレード、術前のFSH値、術前の精液所見などが参考になることもあります。精索静脈瘤は長期的に放置すると精巣機能をより悪化させる可能性もありますので、患者様との長期的な治療プランの話し合いが大事になってきます。
複合的に体外受精/顕微授精(IVF-ICSI)が必要な場合で、精索静脈瘤が見つかっていたケースでは、先に積極的に手術をする必要があるかどうかですが、有益性は乏しいとされています。唯一の例外として非閉塞性無精子症に精索静脈瘤が合併している場合です。この場合は先に精索静脈瘤の手術をすることで射出精液中に精子もみつかることがあるようです。ただし、非閉塞性無精子の患者様の中にはSertoli cell-only syndromeやmaturation arrest syndromeのような精子が絶対でてこないパターンもありますから、医師と相談した上で、TESE(精巣内精子採取術)の前に精索静脈瘤の手術を行うかどうかを決定するのが好ましいと思います。
当院で一度は精液検査を実施した男性患者3,272中、当院男性不妊外来を996名(30.4%)受診しております。男性不妊外来の受診者のうち29.0%に精索静脈瘤が見つかっています。そのなかで手術を行うかどうかは、やはり上記の指針にそって判断しています。最近ではDNAが損傷している精子の割合を判定する精子クロマチン分散化試験(Sperm Chromatin Dispersion TEST)も一般化してきており、こちらもふまえながら情報提供をさせていただいております。
総運動精子数 | 患者数(名) | 精索静脈瘤 Grade II以上(名) |
割合 |
---|---|---|---|
<1000万 | 442 | 156 | 35.30% |
1000~2000万 | 183 | 49 | 26.80% |
2000~5500万 | 206 | 49 | 23.80% |
≧5500万 | 155 | 32 | 20.60% |
合計 | 986 | 286 | 29.00% |
(開院から2021年6月までの成績)
文責:川井清考(院長)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。