PPOSの胚質はアンタゴニスト法を変わらない(論文紹介:その2)

現在、国内では全胚凍結を中心としたPPOS(Progestin-primed ovarian stimulation)が増えてきています。4,000人以上の出産児を対象とした検証でも、PPOSは新生児の有害な転帰や先天性奇形の増加とは関連していないことも報告されています(MPAによるPPOSが普及したきっかけ(論文紹介))当院でも他の刺激との成績の検証が終わり、患者様に提供して遜色ないレベルになってきたと思っていますので、徐々にPPOS比率を増やしています。HMGアンタゴニストと比較検証した前向き研究がご紹介させていただきます。

≪論文紹介≫

Juan Giles, et al. Fertil Steril. 2021. DOI: 10.1016/j.fertnstert.2021.02.036
酢酸メドロキシ・プロゲステロン(MPA)によるPPOS刺激を受けたegg donor患者と、GnRHアンタゴニストによる従来の卵巣刺激を受けたegg donor患者の卵巣反応と生殖成績を比較しました。2017年10月から2019年6月まで、前向きの無作為化対照試験を実施しました。ドナー318名を1:1の割合で無作為に2群に分け、得られた受精卵を364名のレシピエントに割り当てました。ドナー160名には卵巣刺激開始時からMPA 10mgを1日1回経口投与し、156名にはGnRHアンタゴニストを投与しました(先行卵胞の直径が13mmに達した時点で開始)。経膣超音波検査を実施し、モニタリング中に血清エストラジオール、LH(早発サージ発生率もふくめて)、プロゲステロンの濃度を記録し、さらに卵胞液中の内分泌プロファイル、回収卵子数、MII数、妊娠結果成績なども解析いたしました。
結果:
回収卵子数は、MPA群では21.4±11.7個、antagonist群では21.2±9.2個であった(mean difference 0.14; 95% CI -2.233, 2.517)。rFSHの総投与量、卵巣刺激期間、および血清と卵胞液の内分泌プロファイルは2群で同等でした。両群とも早期排卵は認められませんでした。着床率(MPA群68.1%、アンタゴニスト群62%)、臨床的妊娠率(MPA群64.5%、アンタゴニスト群57.8%)、継続的妊娠率(MPA群55.4%、アンタゴニスト群55.4%)については、統計的に有意な差は認められませんでした。 着床率(MPA群55.4%、アンタゴニスト群48.5%)、出生率(MPA群55.1%、アンタゴニスト群48.5%)、累積出生率(MPA群73.8%、アンタゴニスト群70.7%)のいずれもMPA群が良好な結果となりました。
結論:
MPAによるPPOSにより、GnRHアンタゴニスト法と同様の回収卵子数、内分泌プロファイル、有効胚数、および良好な妊娠転帰が得られました。

試験プロトコルの方法
ピル前投薬+5日より刺激開始:
ピル調整症例(MPA群50.4%(112/161)、アンタゴニスト群49.5%(110/157))rFSH初期投与量は150~225単位
MPA群は開始当日からトリガー当日まで1日1回内服
アンタゴニスト群は卵胞径13mmになってから投与(flexible pattern)
トリガーはGnRHaの皮下注射で実施し36時間後に採卵

  MPA法 アンタゴニスト法
Donor 女性年齢(歳) 24.2±4.3 24.1±4.5
Donor BMI (kg/m2) 22.1±2.5 22.7±2.7
Donor AFC(個) 26.9±8.1 26.3±8.4
Donor AMH (pmol/L) 32.6±16.1 29.5±14.7
卵巣刺激日数(日) 10.0±1.5 10.1±1.3
Total FSH量(単位) 1,964±431 1,973±392
13mm以上卵胞数(個) 17.1±6.1 16.3±6.1
回収卵子数(個) 21.4±11.7 21.2±9.2
MII数(個) 16.7±9 16.9±7.7
成熟率(%) 79 81.2

≪私見≫

以前紹介させていただいたPPOSの胚質はアンタゴニスト法を変わらない?(論文紹介)は自身卵子であり、平均年齢も37歳前後でしたが、今回は24歳前後でのドナーエッグでの有用性を確立した論文です。
LHがトリガー日に下がっていてもGnRHaでのトリガーで成熟率が変わらない、採卵日のLH抑制もPPOSの方が強くかかっていることが本題以外にも記載されています。今後はOHSSとの関連の論文も数多くでてきそうですね。

文責:川井清考(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

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