GnRHアンタゴニスト法を考える(早期黄体化)

調節卵巣刺激中は、ロング法、ショート法であればGnRHアゴニストの点鼻薬、アンタゴニスト法であればGnRHアンタゴニスト製剤(セトロタイド、ガニレスト)で抑制されていますが、それでも血中プロゲステロン値が上昇してくることを早期黄体化と呼ばれています。私が大事だと思っている部分を論文から拾い上げてご紹介させていただきます。下記の論文を参考に様々な論文を検証してみました。

Reda S Hussein, et al.  J Assist Reprod Genet. 2019. doi: 10.1007/s10815-019-01598-4.

排卵誘発日(hCG投与日)にプロゲステロンが増加(早期黄体化)すると、全体的に妊娠率および出生率が低下することがわかっています。この問題を調査した論文の大半から得られた知見は一致しているようです。今まで議論があり、排卵誘発日のプロゲステロン値が1.5ng/ml以上だと新鮮胚移植の成績が落ちるのは間違いなさそうですが、新鮮胚移植を提案するときに、患者様から「より最善だと思う方を提示してください」と言われることがあります。その場合、Bonston IVFグループ(Cynthia Simon, et al. RBMO. 2019)は排卵誘発日の血中プロゲステロンが0.8ng/ml以上でも妊娠率が低下するとしていますので、当院では慎重に血中プロゲステロンが1ng/ml以上の場合は新鮮胚移植を見送ることを検討しています。

早期黄体化は人種間に差がなく新鮮胚移植の成績を低下させるとされています。
ただし、人種間にcut offに差があるのでは?とされており、明確な日本での基準は示されておりません。卵巣反応性の高い人(high-responder)の方が血中P4の上昇率が高いとされています。これは卵胞一つあたりからも少しずつプロゲステロンがでていて複数卵胞があるので総和として全体のプロゲステロン値が上昇するとされています。
一方で、卵巣反応性の低い人(poor-responder)でも早期黄体化率が高いと訴える人もいます。たくさん卵子の数があって総和としての血中プロゲステロン値の上昇がしている人の場合、卵子の質が低下しませんが、卵胞数がないのにプロゲステロン値が上昇してきている場合は卵子の質の低下の指標になっていることもあり、今後の検証が必要とされています。
rFSHで刺激された患者群では、HMGで刺激された別の群と比較して、より高い早期黄体化が認められています。ただ、メカニズムはわかっていません。
現在のところ、rFSHはHMGに比べて発育卵胞数が増える傾向にあり、結果として総和としての血中プロゲステロン値が増加するのではないかと推測されています(Andersen AN,et al. Hum Reprod. 2006. Mannaerts B. Fertil Steril. 1998. Filicori M. J Clin Endocrinol Metab. 2002.)。
では、LH:FSH比がどれくらいであれば早期黄体化が起きづらいのでしょうか?
こちらは比率が0.3-0.6位の場合が一番起きづらく、順番としては0.3未満>0.6以上>0.3-0.6になるようです(Werner MD,et al. Fertil Steril. 2014.)。
また排卵誘発を行うタイミング(hCGをうつタイミング)にも影響をするとされています。ほとんどの場合トップの発育卵胞がある程度の数に達したら排卵誘発を行いますが、もっと数を増やしたいと考えて排卵誘発日を遅らせれば遅らせるほど早期黄体化率が上がるようです。
血清プロゲステロン値は排卵誘発を1日延期すると0.8±0.3から1.1±0.5に上昇、2日延期すると1.1±0.1から1.5±0.1に上昇します。(Oktem O, et al. Hum Reprod. 2017.Kolibianakis EM, et al. Fertil Steril. 2004)

早期黄体化が内膜にだけ影響を与えて新鮮胚移植の成績を落としていることは間違いのない事実ですが、卵子の質も低下させているのかどうかはは議論が分かれます。
これは別のブログでご紹介いたします。

≪私見≫

当院に転院されて来て、「私はアンタゴニスト法が合わないと言われている」と早々におっしゃられる患者様がいらっしゃいます。もちろん、本当に合わない方もいらっしゃるのだと思いますが、私個人的には、受診されていたクリニックがそのクリニックに適したと思っている薬の投与量や使用薬、排卵誘発のタイミングで実施したアンタゴニスト法が合わなかっただけのことが多いような気がしています。
まずは早発LHサージがでていないか、早期黄体化が起こっていないか、卵子の質はどうだったか、移植法はなんだったのか振り返ることが重要です。
当院が標準的に行っているアンタゴニスト法に合わない患者様もいると思っていますので、初回の結果が芳しくなかった場合に刺激を変える場合が大半ですが、同じアンタゴニスト法で少しずつやり方を変えて実施することも選択肢にいれています。

文責:川井清考(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

亀田IVFクリニック幕張