反復流産(不育症)の子宮奇形との関連(論文紹介)
子宮奇形は最近では先天性子宮形態異常と表現されることもありますが、反復流産との関係にフォーカスしてご紹介いたします。
Marie Carbonnelら. Fertil Steril. 2021. DOI: 10.1016/j.fertnstert.2020.12.003.
≪論文紹介≫
子宮奇形と反復流産
先天性の子宮奇形を有する女性では,反復流産のリスクが高くなります。最も広く使われている分類は、ASRM(アメリカ生殖医学会)とESHRE(ヨーロッパ生殖医学会)/ESGE(ヨーロッパ内視鏡学会)の提唱した2分類が主に使用されています。
子宮奇形のほとんどは胎生期のミュラー管の発生異常で起こることが一般的です。子宮内腔側に突出した部分の凹みの程度によって、中隔子宮と弓状子宮の2つの状態が定義されています(ASRM分類のみ、ESHRE/ESGE分類では弓状子宮という概念がありません)。
妊娠初期の発育を阻害する病態生理は完全には解明されていません。仮説として、子宮中隔は繊維性結合織よりなっており血管分布が少ないことに起因すると考えられています。さらに、中隔組織はエストラジオールとプロゲステロンの変化に影響を受けづらかったり、子宮の収縮性を変化させたり、VEGF受容体が欠如している可能性もあります。
先天性奇形の存在は、従来の経膣超音波検査で疑うことができますが、子宮奇形の検出感度は60~80%と低い傾向にあります。3D経膣超音波検査は診断感度と精度が最も高く、特に中隔子宮と双角子宮を区別するのに適しています。この流れで検査をおこなっていきます。
子宮鏡検査と腹腔鏡検査を組み合わせることが、子宮内腔の突出と外部の陥凹を同時に見ることができるため、子宮奇形を診断するためのゴールドスタンダードとなっています。しかし、侵襲的なため、その他の手段をつかって代替診断を行っていきます。
子宮卵管造影は放射線被爆もあり、子宮奇形の診断にはあまり有効ではないとされていて、超音波やソロヒステログラフィーのうえ補助的検査として行うことが一般的です。
子宮鏡検査も単独では子宮奇形の適切な診断、治療法を決定するころは難しいとされています。
ソノヒステログラフィーでは、子宮腔の内部の輪郭を描出することに適しています。
骨盤内MRIは、複雑な子宮奇形の診断には役に立ちますが、必ず日常的に取る必要もないとされています。ESHRE/ESGE分類でU3およびU5の奇形は腎臓および尿路に奇形があることもあるので注意を要します。
先天性子宮奇形の管理方法
子宮中隔切除は安全で効果的であるとされていますが、この判断はレトロスペクティブな試験のみに基づいています。
Venetisらのメタ解析では、手術群で流産リスクが減少しています。(RR. 0.37; 95%CI 0.25-0.55)(Venetis CAら. Reprod Biomed Online. 2014)。しかし最近の257名を対象としたコホート研究では中隔切除は妊娠予後を改善しなかったとしています(Rikkenら. Hum Reprod. 2020)。
実際、反復流産の既往がある女性を対象に、中隔切除と切除しないことを比較した国際的なRCT(TRUST試験)が現在進行中しています。
学会の位置付けとしては以下のようになっています。
ASRM(2016):いくつかの限定した研究で、中隔切除は流産率を減少させ不育症既往のある患者の出産率を改善する(Grade C)。
ESHRE(2017):中隔切除は臨床試験として評価をされるべきである(推奨グレードなし)。単頸双角子宮の形成術は推奨しない(strong)。
RCOG:手術の有用性を支持する十分なエビデンスはない。
産婦人科内視鏡手術ガイドライン2019(国内):適切な症例選択のもとで、中隔子宮に対する子宮鏡手術を開腹手術に並ぶ選択肢として推奨する。(推奨グレード2)
中隔切除には子宮穿孔、術後子宮腔癒着、頸部裂傷、帝王切開率などの術後合併症があることも認識する必要があります。弓状子宮、双角子宮、単角子宮に対する外科的治療の有益性を示す証拠は示されていません。反復流産女性における子宮形成障害子宮(クラスU1)に対する子宮拡大形成術は今後の争点となっていますが、現在のところ、国際的なガイドラインでは子宮形成障害子宮(クラスU1)の外科的治療は推奨されていません。
文責:川井清考(院長)
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