卵子の中にある女性の染色体の数にまつわるお話 その2
前回、卵子の中には女性染色体が「四つ」あり、卵子は母親染色体の数を「四つから一つ」に減らしてゆき、最終的に父親染色体と「1:1」で出会うように数の調節をするというお話をしました。今回はこの過程を詳しく説明します。
下の図は以前のブログ記事にも示した卵子の成熟過程を示したものです。左からGV→MI→MIIの順で成熟してゆき、精子が侵入します。人間に例えると小学生→中学/高校生→大人の順に成人し、結婚となります。卵子の写真の見た目の変化を見ていくと、GVでは卵子の中に袋が一つ、MIでは卵子の中の袋が消え、MIIでは卵子の外に小さなボールが出現しています(左から3番目の写真の白い矢印)。この見た目の変化が、卵子中の染色体の数を減らしていく過程に密接に関係しています。次に、見た目には表れない卵子内部の染色体の動きをイラストで示します。
GVでは卵子の中に女性の染色体が4つあります(一番左)。MIでは4個の染色体が2個-2個に数を減らして2つに分かれます(左から二番目)。これは減数分裂と呼ばれています。MIIでは、この2個-2個に分かれた染色体のうち、半分の2個は卵子本体の外側に放出、もう半分の2個は卵子本体の内側に残った状態となります(左から三番目)。したがって、MIIと呼ばれる時期に卵子の外に見える小さなボールの中には女性の染色体が2個入っていることがお分かり頂けると思います。卵子は、この状態で暫く成長・成熟の動きを一時停止して、精子の侵入を待ちます。この精子を待っている状態では、卵子の中の染色体の数は2個なので、ここから更に1個減らしてゆきます。次に、精子が侵入してから卵子本体の中にある2個の染色体が最終的に1個に減る過程を説明します。
精子が侵入した後の外観の変化を見てみると(上段の卵子の実際の写真)、左から精子侵入→減数分裂では外観に大きな変化は見られません。次に見られる変化は、左から3番目の写真に見られるように、二番目(二個目)の小さなボールが卵子の外に出現します(白い矢印)。次いで、一番右側の写真が示すように卵子本体の中に袋が2つ見える状態となります。この状態が受精と呼ばれる時期となります。
下段に示した、見た目には表れない卵子内部の染色体の動きを示したイラストを見てみましょう。精子侵入を察知すると卵子は、卵子本体の中にある2個の染色体を、今度は1個-1個に数を減らして2つに分かれます(左から2列目)。卵子の中で起こる2度目の減数分裂になります。減数分裂の次は、この1個-1個に分かれた染色体のうち、半分の1個は卵子本体の外側に放出、もう半分の1個は卵子本体の内側に残った状態となります。侵入した精子の頭の中には男性の染色体が1個入っていますので、この時点で初めて男性と女性の染色体が1:1の状態で出会う準備が整います。したがって、この時に卵子の外に見える大き目のボールの中には女性の染色体が2個、小さ目のボールに入っている女性の染色体が1個入っていることがお分かり頂けると思います(左から3、4列目)。そして、卵子の中に残った女性の染色体1個から母親の遺伝情報が入った袋が一つ(左から4列目の写真、黄色い矢印)、精子の頭から父親の遺伝情報が入った袋が一つ(左から4列目の写真、白い矢印)、合計二つの袋が見える状態“受精”となります(左から4列目)。
一番始めに卵子の中の染色体数は「四つから一つ」に減ると申し上げましたが、厳密に言うと、最初に卵子の中にある「4個」の染色体は始めに卵子の外に「2個」、次いで「1個」、合計「3個」放出されることで卵子の中に「1個」だけ残った状態となります。なので卵子を覆っている卵子内部の女性の染色体の数の合計は常に「4個」です。あくまでも卵子本体の中に残っているのが「1個」になっている状態となります。卵子本体の外に放出されてしまった合計「3個」の余りの女性染色体ですが、決してダメな染色体という訳ではなさそうです。マウスでの検証によれば、この卵子の外に放り出された3個の女性染色体を取り出して、これらを利用して3匹のマウスの赤ちゃんを誕生させることに成功しているそうです。この実験結果から、卵子の外に放り出された女性染色体はちゃんと機能していることが分かります。4個の染色体のうち、最後に卵子の中に残る染色体はどうやって決まるのか?卵子本体の外に放り出された「余り」の染色体達は受精後に何らかの役割があるのか?等疑問に思うことは多々ありますが分かっておりません。
以上、卵子中の女性の染色体の数にまつわるお話を2回に分けてお話しました。卵子の神秘的な一面を知って頂けますと嬉しいです。
文責:平岡謙一郎(培養室長)
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