流産リスクは母親年齢とそれ以外にあるの?(論文報告)

流産は「妊娠しない」ということと同様に、子供が欲しいカップルにとっては精神的にも辛い合併症です。
一般的に流産率は約15%と説明されますが、年齢の影響を受けることがわかっています。2020年12月のアメリカ生殖医学会・アメリカ泌尿器科学会の男性不妊ガイドラインでも流産リスクは、男性不妊の影響があると書き込まれたことははホットトピックスであったと思います。
では、それ以外にもどのようなことに影響を受けるのでしょうか。

流産の本当の影響を視るのは中々難しく、下記のような様々なバイアスがあります。
・妊娠数を正式に把握しているレジストリ制度を持っている国でしか把握できない
・堕胎の数を把握しないといけない
・体外受精が始まる前なのか、着床前診断が始まる前なのかで正式な割合が異なる可能性がある。
今回ご紹介する論文は2009-2013年の出生記録からの調査ですので、適度に体外受精も入っており、着床前診断もそこまで大多数ではないはずなので参考になるかと思います。
Maria C Magnusら. BMJ. 2019.  DOI: 10.1136/bmj.l869.

≪論文紹介≫

母親の年齢および妊娠歴が流産と関係するかどうかを評価するために2009~2013年に妊娠したノルウェー人女性全員を対象にノルウェー出生登録(Medical Birth Register of Norway)、ノルウェー患者登録(Norwegian Patient Register)、人工妊娠中絶登録(Induced Abortion Register)のデータベースを用いて女性年齢と妊娠既往歴の流産リスクとの関係をロジスティック回帰法で推定しました。
結果:
調査期間中の妊娠は42,120件でした。
流産リスクは25~29歳の女性で最も低く(10%)、30歳以降は急激に上昇し、45歳以上の女性では53%に達しました。過去の流産既往は次回流産の強いリスク因子となっていて年齢調整済みのオッズ比は1回の流産で1.54(95%信頼区間1.48~1.60)、2回の流産で2.21(2.03~2.41)、3回の連続流産で3.97(3.29~4.78)でした。
その他の流産リスクは、前回出産が早産群(調整オッズ比1.22、95%信頼区間1.12~1.29)、死産群(1.30、1.11~1.53)、帝王切開群(1.16、1.12~1.21)、または前回の妊娠で妊娠性糖尿病を患っていた群(1.19、1.05~1.36)に、わずかに増加しました。
胎内発育遅延(SGA)があった場合も流産リスクは、わずかに高かりました(1.08、1.04~1.13)。
結論:
流産リスクは母体年齢によって大きく影響を受けます。早産・死産・妊娠糖尿病・既往帝王切開・胎内発育遅延などでも流産リスクが上昇しており、現在のところ解明されていないリスクのサロゲート因子として関係している可能性があります。

≪私見≫

妊娠についてはわかっているようで、まだまだ解明されていないことが多くあります。患者様からは、「体外受精は自然妊娠に比べてリスクが高いので自然を希望します」という声を多数伺います。
妊娠最大の合併症である流産率は、体外受精でこのような国のレジストリデータや体外受精が始まる1990-2000年の流産率と比較し高い印象はうけません。
患者様には辛いかもしれませんが、流産を引き起こすリスク因子や現在の状態を把握していただき、私たち医療者は、先に進む気持ち・立ち止まる気持ちを考える機会をもてるような医療の提供に努めていく必要があるんだと思います。

 

<自然妊娠の流産率を示していそうな論文①>
Anne-Marie Nybo Andersenら. BMJ 2000.
12-19歳:13.3%
20-24歳:11.1%
25-29歳:11.9%
30-34歳:15.0%
35-39歳:24.6%
40-44歳:51.0%
45歳以上:93.4%
<自然妊娠の流産率を示していそうな論文②>
Maroulis GBら. Semin Reprod Endocrinol. 1991
30歳未満:7-15%
30-34歳:8-21%
35-39歳:17-28%
40歳以上:34-52%

文責:川井清考(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

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