慢性子宮内膜炎治療の抗生剤治療治癒率の前向き研究(論文紹介)

慢性子宮内膜炎(CE)は、子宮内膜間質に形質細胞が存在することを特徴とします。
慢性子宮内膜炎は異常性器出血、内膜ポリープや子宮筋腫などの子宮形態異常、不妊、反復着床不全(RIF)、および不育症などと関連が指摘されています。後ろ向き研究では抗生物質治療が慢性子宮内膜炎の治癒と生殖成績の改善に有効であることが示されていますが、抗生物質治療の効果については、ランダム化比較試験ではまだ正式に検討されていませんでした。抗生物質治療を受けた女性の慢性子宮内膜炎検査陰性率と妊娠予後を評価項目とした中国で行われた前向き研究をご紹介いたします。

Dongmei Songら. Fertil Steril. 2021. DOI: 10.1016/j.fertnstert.2020.12.019

≪論文紹介≫

前向き単盲検ランダム化対照試験で中国の大学病院で実施されました。CD138病理の免疫組織化検査(高倍率で10視野あたり1個以上の形質細胞を慢性子宮内膜炎陽性とし、10個未満を軽度、10個以上を重度と定義しています)で、慢性子宮内膜炎が確認された女性132例(不妊、反復着床不全(RIF)、および不育症、異常性器出血で紹介された患者で筋腫や内膜ポリープなど明確な子宮形態異常所見をもった女性は除外されています)を対象としました。
抗生物質治療に無作為に割り付けられた女性は、レボフロキサシン500mgとチニダゾール1,000mgを毎日14日間経口投与されました。対照群に無作為に割り付けられた女性は何の治療も受けませんでした。初回CD138検査から4~8週間後に子宮内膜生検を再度実施し、慢性子宮内膜炎の有無を判定しました。
結果:
抗生物質治療1クー後の検査結果慢性子宮内膜炎陰性率は、治療群(89.3%)が対照群(12.7%)に比べて有意に高くなりました。妊娠を試みた群では,妊娠継続率および流産率に治療介入群(43.2%,5.4%)と対照群(25.7%,14.3%)との間に有意差はありませんでした。全症例での比較(妊娠トライかどうか関係なく)においても、治療介入群(27.1%、3.4%)と対照群(16.4%、9.1%)との間で、妊娠継続率および流産率に有意差は認められませんでした。
結論:
慢性子宮内膜炎の治療には、14 日間の経口抗生物質治療が有効であり、89.8%以上の症例で有効でした。しかし,治療によって妊娠転帰が改善されたかどうかはまだ明らかにされていません。

  治療介入群 対照群
女性年齢 31.86±4.7 31.93±4.8
BMI 22.91±3.4 22.28±3.5
出産回数 2.15±0.9 2.15±0.9
流産回数 1.59±1.0 1.93±1.0
不妊症 35 29
不育症 8 12
異常性器出血 9 8
反復着床不全 6 4
充血(子宮所見) 21 20
マイクロポリープ(子宮所見) 2 1
浮腫(子宮所見) 2 2
異常なし(子宮所見) 34 32

表:対象患者の患者背景と子宮鏡所見

≪私見≫

前向き研究で慢性子宮内膜炎の治療予後と妊娠成績がでてきたのでご紹介させていただきました。今まで意図的というか慢性子宮内膜炎のブログを選択してこなかった理由は慢性子宮内膜炎検査が乱用されていて、これが見つかると不妊原因として全てが解決したかのように思われる患者様を数多くみてきたからです。
「慢性子宮内膜炎が不妊原因です」と言って転院して来られる患者様も数多くいらっしゃいますが、内膜組織をとってくる侵襲的な検査なので、できる限り控えていきたいとは思っています。
慢性子宮内膜炎治療の2週間の抗生剤選択として、ドキシサイクリン、メトロニダゾール、オブロキサシン、シプロフロキサシン、アモキシシリン/クラブラネート、セフトリアキソンなど様々な抗生物質が使用されていますが、今回の論文ではレボフロキサシン(500mg/日)とチニダゾール(1,000mg/日)を併用しています。
当院で最初に使っているドキシサイクリンは副作用が出ることも多いので、レボフロキサシンも治療選択の一つだなと認識することができました。
今回の研究では妊娠継続率と流産には差がつきませんでしたが、これはあくまで最初の症例数計算の設計が抗生剤治療による慢性子宮内膜炎の治癒率で出されています。
したがって、正式に妊娠率までの設計をすると有意差がでるのではないかと思っています。
また、意外と子宮鏡所見で異常がない方でもCD138細胞陽性の方がいらっしゃることが表からもわかります。症状が何もなくても一定時期に慢性子宮内膜炎精査を行うのも必要なのかもしれません。

文責:川井清考(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

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