体外受精の調節卵巣刺激法(2021 年度:当院の治療方針)

ERA検査が普及してから胚移植方法をどのように実施すべきか2018-2019年にかけて見直しを行なってきましたが、卵巣刺激の標準化は中々難しいだろうと思い、個別化医療という名のもとにデータ整備が後回しになっていました。
最近、なんとなく参考文献も増え当院の方針もまとまってきたので治療を検討中の皆さんの参考にしていただければ幸いです。

私自身2014年に亀田総合病院に赴任した際の卵巣刺激は、クロミッドHMGのマイルド法が中心でした。そこからクロミッドHMGのマイルド法に少しHMG+アンタゴニスト法で2-3日加える卵巣刺激に変わり、2019年度まではクロミッドHMG アンタゴニスト法が3割、HMGアンタゴニスト法が3割となっていました。
2020年に入ってからは卵巣予備能を参考としてHMGアンタゴニスト法を主としています。理由は3点あります。①ヨーロッパ生殖医学会のガイドラインの標準化治療に記載されていること、②OHSSリスクなどの調整がしやすいこと、③卵巣刺激反応不良群の次回以降の治療参考にPOSEIDON基準を交えて整理できるところです。

①ヨーロッパ生殖医学会のガイドラインの標準化治療に記載されていること

HMG法、ロング法共に標準化治療として書かれてありますが、ロング法は卵巣刺激の前周期からの介入が必要であることからも、以前より実施していたHMG法を選択しています。当院では一定数の患者様には新鮮胚移植を提示しておりHMGアンタゴニスト法での新鮮胚移植のデータは海外も含めて多数ありますので、患者様の説明には使いやすいという利点もあります。

②OHSSリスクなどの調整がしやすいこと

月経周期別に胞状卵胞数はやや異なります。HMG アンタゴニスト法は刺激する月経周期の胞状卵胞数をみてHMG投与量を検討したり(変更することにより良くなるEBMはまだまだ国際的には乏しいですが)、排卵誘発(GnRHa点鼻薬やhCG注射、併用など)を変更することが可能だからです。

③卵巣刺激反応不良群の次回以降の治療参考にPOSEIDON基準を交えて整理

POSEIDON基準I、II度とはロング法、ショート法、HMGアンタゴニスト法にてHMG150単位にて刺激を行った際、卵巣予備能が十分あるのに回収卵が少ない群をさします。その場合に次回どのように対処するのかが明確になります。
卵巣刺激は様々な方法がありますが、改めてデータを振り返ると、当院ではその周期の胞状卵胞数、事前に測定したAMH、年齢の順に参考にして卵巣刺激を決めています。この3点はある程度相関しますので同じような傾向があります。
卵巣刺激は卵の質は大きく変えないというのが一般的ですが、少しは変えてしまう可能性もあるので、今後も慎重に治療選択を提示していく予定です。

2021年度は刺激法を少し変更する予定です。

①PPOS刺激の増加

卵巣刺激を行う際にLHサージ抑制のためにロング法・ショート法ではGnRHa点鼻薬(スプレキュア®︎、ガニレスト®︎)、アンタゴニスト法に関してはGnRHアンタゴニスト製剤(セトロタイド®︎、ガニレスト®︎)の使用が行われてきましたが、近年、黄体ホルモンを使用する卵巣刺激法、PPOS(Progestin-primed Ovarian Stimulation)法の有用性が報告されています。当院では一部の症例では先行してきましたが、症例を限って行ってきました。理由としては黄体ホルモンの指摘投与薬剤(ルトラール®︎、デュファストン®︎、プロベラ®︎など)と1日投与量がまだまだ不明であること、注射日数が伸びる可能性があること、新鮮胚移植が実施できないこと等からです。ただし、メリットも多くあり、最近はPPOSを数多く実施しているクリニックと施設間の勉強会なども積極的に開始し、方向性がほぼまとまりましたので安定して提供していけるかと考えています。

②クロミッドHMG法の見直し

日本ではクロミッドHMG法が多く行われていますが、世界的には主流ではありません。まだまだ論文も多くなく評価対象から上がっていないからです。
ただし、日本でここまで普及したのには理由があり、注射日数が減らせること、症例を選べば連日注射より数多く採卵数を確保できる症例があることです。
現在まで、クロミッドHMG法を実施するか、連日注射をする刺激を実施するかは患者様と個別に相談し決定してきましたが、データの解析により患者様に至適な方法を提示できる準備が整ってきましたので、再度クロミッドHMG法も見直す予定でにしています。

文責:川井清考(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

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