凍結した胚盤胞移植で透明帯がある場合とない場合があるのはなぜ?

凍結した胚盤胞を解凍して、お腹に戻す胚移植前、下の図のように胚盤胞に透明帯がある場合とない場合があります。おおよそ、8-9割の胚盤胞は透明帯があって、1-2割の胚盤胞は透明帯がない状況なので、今回は主に透明帯がない理由を解説したいと思います。

胚移植前、胚盤胞の透明帯がない理由は2つあります。

1. 凍結する前から透明帯がなかった
2. 凍結する前に透明帯はあったが、解凍した時点で透明帯が外れてなくなった

先ずは

1. 凍結する前から透明帯がなかった

から説明したいと思います。
下の図のように、胚盤胞と呼ばれる時期の発育過程は様々です。基本的には透明帯に覆われている「拡張胚盤胞」の時期に凍結をすることにしていますが、稀に、成長の早い受精卵は凍結時、既に自ら透明帯を出てしまって「孵化胚盤胞」となっている場合があります。当然ながら、この状態では既に透明帯がない状態なので、解凍後も胚移植前も透明帯がない状態になります。


次に、

2. 凍結する前に透明帯はあったが、解凍した時点で透明帯が外れてなくなった

について解説を進めていきます。
以前の記事で胚盤胞を凍結する前にはレーザーで小さな穴を開けて、胚盤胞を縮めてから凍結するということを説明致しました。この縮み方は胚盤胞毎に異なり、ある胚盤胞は水が抜けて完全に縮んだ様になったり、ある胚盤胞は水が完全に抜けず元の大きさよりも若干小さくなったりと千差万別です。因みに、この縮み方のバリエーションは凍結・融解後の生存率、胚移植後の妊娠率には全く影響しません。


解凍した時に透明帯が外れてしまう胚盤胞に大きく関与しているのが、この胚盤胞の縮み方と透明帯孵化補助になります。以前の記事で、当クリニックでは凍結・融解した胚盤胞をお腹に戻す前に全例、透明帯外周の半分に穴を開ける透明帯孵化補助を実施しています。


傾向として、解凍操作の工程の中で、凍結時により縮んだ胚盤胞は透明帯孵化補助により開けた穴から出やすくなります。つまり透明帯が外れて無くなっている状態になり易くなります。あまり縮んでいない胚盤胞は透明帯孵化補助により開けた穴から出にくくなります。つまり透明帯がある状態になり易くなります。


以上、凍結した胚盤胞を解凍して、お腹に戻す胚移植前、胚盤胞に透明帯がある場合とない場合の理由について解説致しました。恐らく、次に出てくる疑問は、透明帯がある状態、ない状態、どちらの方の妊娠率が高いのか?だと思います。以前の記事でも触れましたが、再度、解説させて頂きます。過去の比較試験の結果、胚盤胞の透明帯の一部(35-40μm)に穴を開けた時の妊娠率は42%でしたが、透明帯を完全に外した時の妊娠率は67%となり有意に高い値を示しました。以上のことから、透明帯の一部に穴を開けるよりは、透明帯を完全に除去した方が有効と考えられました。
Hiraoka K, Fuchiwaki M, Hiraoka K, Horiuchi T, Murakami T, Kinutani M, Kinutani K.  Zona pellucida removal and vitrified blastocyst transfer outcome: a preliminary study. Reprod Biomed Online. 2007 Jul;15(1):68-75. doi: 10.1016/s1472-6483(10)60694-3.


また、別の比較試験の結果、胚盤胞の透明帯の一部(40μm)に穴を開けた時の妊娠率は43%でしたが、透明帯全周の半分に穴を開けた時の妊娠率は74%となり有意に高い値を示しました。以上のことから透明帯の一部に穴を開けるよりも透明帯外周の半分に穴を開けた方が有効と考えられました。
Hiraoka K, Fuchiwaki M, Hiraoka K, Horiuchi T, Murakami T, Kinutani M, Kinutani K. Effect of the size of zona pellucida opening by laser assisted hatching on clinical outcome of frozen cleaved embryos that were cultured to blastocyst after thawing in women with multiple implantation failures of embryo transfer: a retrospective study. J Assist Reprod Genet. 2008 Apr;25(4):129-35. doi: 10.1007/s10815-008-9214-5.


ここで透明帯を完全に除去するのと透明帯全周の半分に穴をあけるのとどちらが有効なのかという疑問が出てきます。比較対象と対象期間は異なりますが、それぞれの妊娠率は67%と74%となり有意差は認められないことから、透明帯を完全に除去しても、透明帯の半分に穴を開けても、どちらでも良いと考えられます。

大事なことは透明帯が「ある」のか「ない」のかではなく、透明帯全周の「半分以上」に穴が開いているかどうか、ということになります。

以上、胚移植前の胚盤胞に透明帯がある/ないの理由を知って頂けると幸いです。

文責:平岡謙一郎(培養室長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

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