PCOSでHOMA-IRを測定し、メトホルミンを内服するのはなぜ?

PCOSでの排卵障害の是正には生活習慣のヒアリングから指導をおこない、そのうえでクロミフェン療法を行います。レトロゾールのPCOSへの有効性が示されて以来、メトホルミン使用前にレトロゾールを使用する施設も増えていると思います。
2007年日本産科婦人科学会生殖・内分泌委員会に示したPCOSのガイドラインでは、またレトロゾールの記載はフローチャートには組み込まれておらず、クロミッド単独療法で排卵がみられず、肥満、耐糖能異常、またはインスリン抵抗性をみとめる症例ではクロミフェンにインスリン抵抗性改善薬(メトホルミン)を併用するように記載されています。
当院でも39歳以下で来院される初診患者様の15%近くはPCOSと診断されます。HOMA-IRを測定しメトホルミンを内服していただくこともありますので、ご紹介させていただきます。

①インスリン抵抗性の指標とは?

インスリン抵抗性とは、血中のインスリン濃度に見合ったインスリンの作用が見込めない状態を指します。インスリン拮抗物質の存在やインスリン受容体数の減少、また受容体を介する細胞内の情報伝達能力が低下した状態などが考えられます。肥満や高血圧、あるいは高中性脂肪血症や低HDL血症の方に多い傾向にあります。
早朝空腹時の血中インスリン値が15uU/ml以上を示す場合には明らかなインスリン抵抗性の存在を考えます。その他、早朝空腹時の血中インスリン値と血糖値から計算されるHOMA-IRがあります。
HOMA-IR(Homeostatic Model Assessment- Insulin Resistance)は早朝空腹時の血中インスリン値(uU/ml)×血糖値(mg/dl)/405で求められ、1.6以下は正常、2.5以上はインスリン抵抗性ありと判断します。

②インスリン抵抗性があった場合のインスリン抵抗性改善薬(メトホルミン)は?

メトホルミンはビグアナイド系血糖降下剤(インスリン分泌非促進薬)で、肝臓での糖新生の抑制が主な作用です。そのほか、消化管からの糖吸収の抑制、末梢組織でのインスリン感受性の改善など様々な膵臓外の作用により血糖降下作用があります。
血糖コントロール改善によって体重が増加しにくくなりますし非肥満例にも有効であることが分かっています。
メトホルミンは排卵誘発剤としての保険適応はなく、糖尿病の診断がないかぎり自費での処方になります。ただし、クロミフェン抵抗症例を対象としたクロミフェンーメトホルミン併用療法とクロミフェン単独療法の比較のメタ解析では排卵率(76.4% vs. 26.4%)、妊娠率(27.4% vs. 3.8%)ともに増加し効果が証明されています。

通常、単独使用では低血糖をきたす可能性は乏しいですが、乳酸アシドーシスなどの副作用があるため腎機能の低下や極度の脱水状態、手術前後の患者様には避けていただくようにしています。その他、強い倦怠感、吐き気、下痢、筋肉痛などの症状が出た場合も一旦中止をしていただくように指導しています。

メトホルミンは現在、妊娠中の使用はFood and Drug Administration(FDA)ではカテゴリーBの薬剤とされています。動物実験では胎児へのリスクは証明されていませんが、十分に管理されたヒト実験が不足しているためです。
アメリカやイギリスでは妊娠糖尿病の第一選択薬として使用することもありますが、国によって様々であり、日本では妊娠中の投与は中止されることが一般的です。

参考文献:
生殖医療の必修知識 2017:日本生殖医学会 編
糖尿病治療ガイド2020-2021:日本糖尿病学会 編

文責:川井(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

亀田IVFクリニック幕張