排卵障害(クロミッド難治性PCOS)に超音波ガイド下卵巣穿刺術は有効?(論文紹介)

PCOSの治療は生活習慣・体重の是正からはじまり、原因・検査によりクロミッド・メトホルミン、ゴナドトロピン療法(ゴナールFなどを使用)、最近ではレトロゾール(フェマーラ)などの薬剤治療がメインとなっています。
それでも排卵障害が解除されない患者様がいらっしゃるので、そして腹腔鏡下卵巣多孔術を選択することが多いのですが、入院が必要になるため、なかなか踏み出せない患者様が数多くいらっしゃいます。
難治性PCOS患者様に体外受精後排卵が回復することがあるというのは臨床を行っているとしばしば経験するのですが、「排卵障害(クロミッド難治性PCOS)に超音波ガイド下卵巣穿刺術は有効?」ということについては振り返ったことがないと思い、患者様に説明する上で文献検索をしてみました。数多くはありませんが、報告がありましたのでご紹介したいと思います。
Jing Zhangら. Cochrane Database Syst Rev. 2019 DOI: 10.1002/14651858.CD008583.pub2. 

≪論文報告≫

報告者 超音波ガイド下卵巣穿刺術 腹腔鏡下卵巣多孔術 オッズ比 95%CI
排卵あり 全体 排卵あり 全体
ゴナドトロピンを使わない状態での排卵の回復
Badawy 2009 40 82 45 81 0.76 0.41-1.41
Kandil 2018 80 125 94 125 0.59 0.34-1.01
ゴナドトロピンを使用した状態での排卵の回復
Chen 2004 23 30 25 30 0.66 0.18-2.36
全体 143 237 164 236 0.66 0.45-0.97

システマティックレビューのコクランデータベースです。 クロミッド難治性PCOS 患者639名を対象とする5件の報告を参考としています。出産率まで追跡したものはなく、排卵率と妊娠率までの追跡でした。手術の合併症について示した論文もありましたが、もともと合併症が多くないので検討できませんでした。
超音波ガイド下卵巣穿刺術と腹腔鏡下卵巣多孔術を比較した場合、妊娠率に差があるかどうかも不明でした。(オッズ比 0.54、95%CI 0.28~1.03; 3件のRCT、n = 473;非常に質の低いエビデンス)。
超音波ガイド下卵巣穿刺術と腹腔鏡下卵巣多孔術と比較して排卵率のわずかな低下をもたらす可能性があります(オッズ比 0.66、95%CI 0.45~0.97;I2 = 0%;3 RCT、n = 473;質の低いエビデンス)。この結果は腹腔鏡下卵巣多孔術を行い、予想排卵率69.5%の患者が超音波ガイド下卵巣穿刺術を行うと排卵率は50.6%~68.8%になるという結果です。質の高いエビデンスが少なく今後に期待ですが、クロミッド難治性PCOS 患者の妊娠率、手術合併症の発生率、流産率に超音波ガイド下卵巣穿刺術と腹腔鏡下卵巣多孔術の間に差があるかどうかは不明です。超音波ガイド下卵巣穿刺術は腹腔鏡下卵巣多孔術と比較して排卵率をわずかに低下させる可能性があります。

≪私見≫

超音波ガイド下卵巣穿刺術が腹腔鏡下卵巣多孔術と同等でなくとも排卵障害の是正の効果があるとすると、卵管近位部が閉塞している患者に行う卵管鏡下卵管形成術(FT)や子宮鏡下内膜ポリープ切除術(TCR-P)と組み合わせたりすることが可能になり患者様の負担の軽減(入院日数の軽減や日帰り手術の実施、費用面の軽減)が見込まれます。もちろん、承認された医療ではないため臨床研究の範囲になってしまいますが、今後の展開に期待したいと思います。

私が今回論文を読んでいて感じた点です。

  1. 論文の超音波ガイド下卵巣穿刺術は16Gで卵巣ごとに3-6回の穿刺となっているが、現在 日本で行われる採卵針は19-22Gが主流であり同等の効果があるのか?
  2. AMHまで評価した論文がほとんど見当たらず、Kandilらの論文だけでAMH台が平均8台でした。より難治性の患者様は対象から外れるのでしょうか。腹腔鏡下卵巣多孔術のより詳細な解析データ、また超音波ガイド下卵巣穿刺術が腹腔鏡下卵巣多孔術後のレトロゾールなどと組み合わせた排卵障害の是正の論文を、臨床を行う立場としては知りたいところです。
  3. コクランレビューで排卵率を検討している論文は以下の3報(Kandil Mら、Journal of Minimally Invasive Gynecology 2018、Badawy Aら、Fertility and Sterility 2009、Chen Jら、Journal of Practical Medicine 2004)で、レビュー後に報告された論文(Medhat E Helmyら、Menoufia Medical Journal 2019 DOI: 10.4103/mmj.mmj_651_17)では排卵率に差がないという趣旨となっています。次のレビューの際には超音波ガイド下卵巣穿刺術が腹腔鏡下卵巣多孔術に差がないという結論になっているかもしれません。

文責:川井(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。