父親の年齢と胎盤重量の関係(Hum Reprod 2013)
【研究紹介】
父親の年齢、胎盤重量、および胎盤と出生体重の比率に関する研究:
590,835件の妊娠を対象とした人口ベースの研究
Paternal age, placental weight and placental to birthweight ratio: a population-based study of 590,835 pregnancies.
Strøm-Roum EM et al., Hum Reprod. 2013 Nov;28(11):3126-33. doi: 10.1093/humrep/det299. PMID: 23873147.
妊娠や出生において父親の因子がどのように影響するのかについては、まだ十分に解明されていません。しかし、その影響は胎盤を介して現れる可能性が示唆されています。胎盤の遺伝子の半分は父親由来であり、精子のゲノム、エピゲノム、RNAの変化が胎盤の発達や機能に影響を及ぼす可能性があるからです。
このような観点から調べていたところ、非常に興味深い研究に出会いました。少し前の研究ではありますが、2013年に発表されたものをご紹介いたします。
【研究の要旨】
研究で明らかにしようとしたこと:
父親の年齢は胎盤重量や胎盤と出生体重の比率と関連があるのでしょうか?
結果のまとめ:
父親の年齢が高くなるにつれて、胎盤重量および胎盤と出生体重の比率が増加することが分かりました。これは母親の年齢を調整した後でも認められました。
既に知られていること:
高齢の父親や胎盤と出生体重の比率が高いことは、妊娠転帰が不良になることと関連していると報告されています。
研究のデザイン、規模、期間:
本研究は人口ベースの研究であり、ノルウェーの「医療出生登録簿」に登録された、妊娠22週以降の単胎出産590,835件(1999年〜2009年)を対象としました。
対象と方法:
父親の年齢群ごとに、胎盤重量と胎盤/出生体重比の平均値を比較しました。線形回帰分析を用いて父親の年齢と胎盤重量の関連を評価し、以下の要因で調整を行いました:母親の年齢、出生体重、出産回数、児の性別、出産時妊娠週数、母体喫煙、子癇前症、母体糖尿病、ならびに生殖補助技術(ART)による妊娠。
結果:
父親が20〜24歳の妊娠では、胎盤の平均重量は656.2g(標準偏差142.8)でした。一方、50歳以上の父親の場合は677.8g(標準偏差160.0)でした(P < 0.001)。児の出生体重の平均は、20〜24歳の父親では3465.0g(標準偏差 583.8)、50歳以上では3498.9g(標準偏差 621.8)でした(P < 0.001)。胎盤と出生体重の比率は、それぞれ0.191(標準偏差 0.039)および0.196(標準偏差 0.044)でした(P < 0.001)。
多変量線形回帰分析によると、50歳以上の父親による妊娠では、20〜24歳の父親による妊娠と比べて、胎盤の重量が平均で13.99g(95%信頼区間:10.88~17.10)重いと推定されました(P < 0.001)。この分析では前述の因子すべてで調整を行いました。
研究の限界:
父親の年齢は胎盤重量の全体的な変動の要因の一部のみです。
研究結果の意義:
本研究の結果は、ヒトの妊娠における父親の役割の理解を深める一助となる可能性があります。
【筆者の意見】
胎盤重量が大きい場合や、胎盤と出生体重の比率が高い場合には、子癇前症、胎児死亡、アプガースコアの低下、新生児集中治療室(NICU)への入院率の上昇など、妊娠転帰の悪化と関連していることが報告されています(Eskildら, 2009;Shehataら, 2011;Haavaldsenら, 2013)。さらに、胎盤と出生体重の比率が高いことは、成人期における高血圧のリスク増加や心血管疾患による死亡率の上昇といった、児の長期的な健康への悪影響とも関連しているとされています(Barkerら, 1992;Risnesら, 2009)。小さい胎盤もまた、妊娠転帰の悪化と関連していることが報告されています(Hutcheon ら, 2012)。
これらのことから、胎盤の重量や機能は、妊娠・出産の経過やその後の児の健康において重要な因子であると考えられます。
本研究では、胎盤重量の変化は母親の要因で調整するとその影響は小さくなりましたが、それでもなお父親の年齢が胎盤重量に有意な影響を及ぼすことが示されました。この結果は精子由来の因子―つまり父親由来の影響が胎盤形成に関与している可能性を示す重要な知見だと考えます。
なるべく高齢になる前に父親になることが良好な結果に繋がりやすいという視点もありますが、年齢そのものを変えることはできません。一方で、高齢の父親では喫煙や飲酒などの生活習慣が乱れがちであることが指摘されており、生活習慣を見直して精子の質を改善する努力は可能です。
本研究を通して、父親の健康状態が妊娠中の母親や胎児の健康にまで影響を与えることについて、理解がより深まることを願っております。
文献
- Barker DJ, Godfrey KM, Osmond C, Bull A. The relation of fetal length, ponderal index and head circumference to blood pressure and the risk of hypertension in adult life. Paediatr Perinat Epidemiol 1992;6:35–44.
- Eskild A, Romundstad PR, Vatten LJ. Placental weight and birthweight: does the association differ between pregnancies ith and without preeclampsia? Am J Obstet Gynecol 2009;201:595 e1–595 e5.
- Haavaldsen C, Samuelsen SO, Eskild A. Fetal death and placental weight/ birthweight ratio: a population study. Acta Obstet Gynecol Scand 2013; 92:583–590.
- Hutcheon JA, McNamara H, Platt RW, Benjamin S, Kramer MS. Placental weight for gestational age and adverse perinatal outcomes. Obstet Gynecol 2012;119:1251–1258.
- Risnes KR, Romundstad PR, Nilsen TI, Eskild A, Vatten LJ. Placental weight relative to birth weight and long-term cardiovascular mortality: findings from a cohort of 31,307 men and women. Am J Epidemiol 2009; 170:622–631.
- Shehata F, Levin I, Shrim A, Ata B, Weisz B, Gamzu R, Almog B. Placenta/birthweight ratio and perinatal outcome: a retrospective cohort analysis. BJOG 2011;118:741–747.
文責:小宮顕(泌尿器科部長)
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