男性不妊がない患者におけるIVF vs ICSI:無作為化試験(Nat Med. 2025)
【はじめに】
ICSIは、1990年代に男性不妊治療における技術として登場しました。しかし近年、ICSI使用が本来の適応を超えて拡大しています。重篤な男性不妊因子を持たない患者におけるICSIの従来のIVF(c-IVF)に対する有効性があるのでしょうか。Nature Medicineに質が高い報告がなされました。
【ポイント】
重篤な男性不妊因子を持たない不妊患者において、ICSIはc-IVFと比較して累積生児出生率を改善せず、c-IVFを第一選択治療として支持する結果となりました。
【引用文献】
Berntsen S, et al. Nat Med. 2025. Doi: 10.1038/s41591-025-03621-x
【論文内容】
重篤な男性不妊因子を持たない患者におけるICSIと従来のIVF(c-IVF)の累積生児出生率を比較することを目的とした、オープンラベル、多施設無作為化対照試験(INVICSI研究)です。
2019年11月から2022年12月の間に、デンマーク6不妊治療クリニックにおいて、初回体外受精周期を受ける824名女性を対象とし、ICSI群(n=414)またはc-IVF群(n=410)に無作為に割り付けました。重篤な男性不妊因子を持たない患者として、精製後に200万個以上の前進運動精子を有することが期待される患者、またはドナー精子を使用する患者を対象としました。
結果:
最終参加者の組み入れから12か月後の2023年12月14日時点で、ITT解析において累積生児出生率はICSI群43.2%(179/414)、c-IVF群47.3%(193/408)でした(RR : 0.91、95%CI : 0.79-1.06)。これにはICSI群で1名、c-IVF群で2名の自然妊娠が含まれています。ICSI群で110/414(26.6%)、c-IVF群で129/408(31.6%)の女性が初回胚移植後に生児出生にいたりました(自然妊娠は除く)。最終参加者の組み入れから12か月以内に生児出生に至らなかった450名の参加者(54.7%)のうち、34名が凍結胚盤胞を保有していました(c-ICSI群18名で48個の胚盤胞、c-IVF群16名で47個の胚盤胞)。
2PN/回収卵子でICSI群がc-IVF群より低く(53.5%(1,940/3,628) vs 58.1%(1,983/3,412);P≤0.001)でした。2PN/MII卵子でICSI群のみで計算され66.6%(1,940/2,914)でした。全受精障害はICSI群で20例(4.8%)、c-IVF群で15例(3.7%)でした(RR : 1.29;95%CI : 0.68-2.54)。Time to viable pregnancy to live birthは両群間で差がありませんでした(中央値、ICSI群90日四分位範囲(IQR;42-158) vs c-IVF群93日IQR(43-127);P=0.82)。周産期的転帰には両群間で差はありませんでした。
Per-protocol解析では、累積生児出生率はICSI群43.0%(167/388)、c-IVF群49.2%(186/378)でした(RR : 0.87、95%CI : 0.75-1.02)。初回胚移植後の生児出生率はc-IVF群33.3%(126/378)がICSI群26.5%(103/388)より高くなりました(RR : 0.80、95%CI : 0.64-0.99)。
【私見】
ICSIが特に不利となる患者群はサブグループ解析で32歳以下の若年女性、正常卵巣反応を示す患者(10-15個の卵子回収)であり、精子形態、正常精子パラメータ、治療適応、AMH、生殖医療施設は結果に差をみとめませんでした。
ICSIの受精率がとても低いのが国内成績とは違うところですが、ICSI群とc-IVF群で受精率がICSI群の方が高くなったとしても最終的な結果が一緒なのかは国内報告として検証していくべき部分なんだと思います。日本社会として臨床研究に対して、もっと価値を重んじる時代になってほしいなと感じます。
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文責:川井清考(院長)
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