フォリトロピンデルタを用いたPPOS法 vs. アンタゴニスト法(Cureus 2025)
【はじめに】
PPOS法はプロゲスチンを用いてLHサージを抑制する方法で、アンタゴニスト法と比較してコストが低く、OHSSリスクが低いとされています。体重・AMHを用いたフォリトロピンデルタを用いてPPOS法とアンタゴニスト法の生殖医療成績をAMH層別化により比較検討した国内報告をご紹介いたします。
【ポイント】
フォリトロピンデルタを用いたPPOS法は、AMH 2.03 ng/mL以上群において、アンタゴニスト法と比較して採卵数、胚盤胞数、良質胚盤胞数が有意に多い結果でした。
【引用文献】
Kokeguchi S, et al. Cureus 2025 Mar 27;17(3):e81281. doi: 10.7759/cureus.81281.
【論文内容】
PPOS法とGnRHアンタゴニスト法の間で、フォリトロピンデルタのアルゴリズムに従い実施した場合の生殖医療成績を比較することを目的としました後方視的研究です。
2022年以降に実施したPPOS群529周期、アンタゴニスト群298周期を対象としました。AMH値に基づいて患者を4つのグループに分けました:1.2 ng/mL未満、1.2-2.03 ng/mL、2.03-5.0 ng/mL、5.0 ng/mL以上。評価項目には採卵数、受精率、分割率、胚盤胞到達率、良質胚盤胞到達率としました。全症例ともにfreeze-allストラテジーとしました。
結果:
PPOS群の平均年齢は35.1歳、アンタゴニスト群は36.2歳でした。患者特性(不妊原因と期間、原発性不妊割合、ベースラインホルモン値、BMI、フォリトロピンデルタ投与期間と投与量など)に差はありませんでした。AMH値2.03 ng/mL以上の群では、AMHベースのサブグループにおいて、PPOS法がアンタゴニスト法と比較して採卵数、胚盤胞到達率、良質胚盤胞到達率が有意に多い結果となりました。妊娠率と継続妊娠率については両群間で有意差はありませんでした。
AMH層別化による詳細結果
Group A: AMH <1.2 ng/mL(卵巣予備能低下群)
採卵数(平均±SD)
- PPOS群:4.3±3.4個 vs アンタゴニスト群:3.9±3.3個
胚盤胞数(平均±SD)
- PPOS群:2.1±1.6個 vs アンタゴニスト群:1.3±1.7個
良質胚盤胞数(平均±SD)
- PPOS群:1.5±1.4個 vs アンタゴニスト群:0.8±0.9個
培養成績
- 胚盤胞率:PPOS群 60.1% vs アンタゴニスト群 50.6%
Group B: AMH 1.2-2.03 ng/mL(中等度低AMH群)
採卵数(平均±SD)
- PPOS群:7.5±4.0個 vs アンタゴニスト群:6.1±4.0個(有意差あり)
胚盤胞数(平均±SD)
- PPOS群:2.9±2.3個 vs アンタゴニスト群:2.0±2.1個
良質胚盤胞数(平均±SD)
- PPOS群:1.8±1.5個 vs アンタゴニスト群:1.2±1.3個
培養成績(率)
- 胚盤胞率:PPOS群 56.6% vs アンタゴニスト群 49.2%
Group C: AMH 2.03-5.0 ng/mL(中等度高AMH群)
採卵数(平均±SD)
- PPOS群:9.5±5.4個 vsアンタゴニスト群:7.7±4.3個(有意差あり)
胚盤胞数(平均±SD)
- PPOS群:3.6±2.7個 vs アンタゴニスト群:2.3±2.4個(有意差あり)
良質胚盤胞数(平均±SD)
- PPOS群:2.4±2.0個 vs アンタゴニスト群:1.4±1.6個(有意差あり)
培養成績(率)
- 胚盤胞率:PPOS群 59.2% vs アンタゴニスト群 46.7%
Group D: AMH ≥5.0 ng/mL(高卵巣予備能群・PCOS疑い)
採卵数(平均±SD)
- PPOS群:12.7±7.0個 vs アンタゴニスト群:9.7±5.2個(有意差あり)
胚盤胞数(平均±SD)
- PPOS群:5.0±3.5個 vs アンタゴニスト群:2.7±2.5個(有意差あり)
良質胚盤胞数(平均±SD)
- PPOS群:3.3±2.6個 vsアンタゴニスト群:1.3±1.1個(有意差あり)
培養成績(率)
- 胚盤胞率:PPOS群 63.8% vs アンタゴニスト群 43.5%
【私見】
フォリトロピンデルタを用いたPPOS法とアンタゴニスト法の研究です。
PPOSは月経3日からMPA 5mg/day開始、アンタゴニスト法はガニレストを用いたフレキシブル法を選択しています。トリガーは点鼻もしくはデュアルトリガーを選択しています。初期からのMPAによる抑制はフォリトロピンデルタに関して採卵数の低下には繋がっていなさそうですね。逆に後半過剰なLH抑制は回収卵子数減少を示す根拠となる報告だと思います。
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文責:川井清考(院長)
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