BRCA遺伝子変異と卵巣予備能(Fertil Steril. 2025)
【はじめに】
BRCA変異は、女性の乳がん、卵巣がん、卵管がん、腹膜がんの生涯リスクを著しく高めることが知られています。BRCA遺伝子変異が卵巣予備能にも影響を与える可能性が指摘されています。BRCA関連のATMを介した二本鎖切断(DSB)修復は、BRCA変異保持者の卵巣予備能低下に関与している可能性があります。DNA損傷修復の活性化は、リン酸化ヒストンH2AX(γH2AX)というDNA二本鎖切断のマーカーを増加させ、このマーカーはBRCA変異保持者で増加していることが示されています。BRCA1/2変異が卵巣予備能と卵母細胞DNA損傷との関係を調べた報告をご紹介いたします。
【ポイント】
BRCA1変異保持者は原始卵胞密度低下とDNA損傷増加を示し、BRCA2変異保持者は正常卵胞密度ですがDNA損傷は増加しています。
【引用文献】
Karine Matevossian, et al. Fertil Steril. 2025 May;123(5):899-901. doi: 10.1016/j.fertnstert.2024.11.001.
【論文内容】
BRCA遺伝子変異が卵巣予備能を調査することを目的とした研究です。
米国での単施設の後ろ向きコホート研究として実施されました。対象は18~40歳のBRCA1または2の変異保持者で、リスク軽減のための両側卵管卵巣摘出術を受けた患者です。対照群として良性疾患のために片側または両側卵巣摘出術を受けた患者としました。卵巣がん、化学療法や放射線治療歴、閉経後状態、子宮内膜症を含む卵巣病理は除外されました。
卵巣組織サンプルは切片化され、HE染色後、盲検下で卵胞数がカウントされました。DNA損傷の評価にはp-ATMとγH2AXの免疫組織化学分析が用いられ、卵母細胞のアポトーシス評価にはTUNEL試験が実施されました。すべてのグループについて、原始卵胞と一次卵胞の密度、およびDNA損傷マーカーであるp-ATM、γH2AX、TUNELに対する卵母細胞の陽性率が分析されました。
結果:
51検体が分析され、DNA損傷マーカー染色のための卵胞数が不十分であった3名(BRCA2変異保持者2名、対照1名)が除外され、最終的に48名が分析対象となりました。BRCA1変異保持者は対照群と比較して原始卵胞密度が有意に減少していました(P=.0336)。いずれのBRCA群も対照群と比較して一次卵胞密度に変化はありませんでした。BRCA1変異保持者とBRCA2変異保持者は、対照群と比較して卵母細胞のp-ATM陽性率が統計的に高値でした(62.9% vs. 44.4%, P=.0006; 63.8% vs. 44.4%, P=.0004)。両BRCA群とも対照群より卵母細胞のγH2AX陽性率が有意に高値でした(59.2% vs. 33.2%, P<.0001; 56.3% vs. 33.2%, P<.0001)。両BRCA群とも対照群よりも卵母細胞のTUNEL陽性率が有意に高値でした(53.7% vs. 34.6%, P<.0001; 50.3% vs. 34.6%, P=.0016)。
【私見】
Turanらの2021年のメタアナリシスでも同様の結果です。
Turan V, et al. J Clin Oncol. 2021 Jun 20;39(18):2016-2024. doi: 10.1200/JCO.20.02880.
BRCA変異と卵巣予備脳低下は、やはりメカニズムとして関係がありそうですね。
あとは、臨床結果までどの程度反映されるレベルなのかだと思います。対象患者様の過度な不安をあおらないような適切な情報提供を心がけたいと思っています。
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文責:川井清考(院長)
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