女性生殖器内細菌叢と習慣性流産:ネステッドケースコントロール研究(Reprod Biomed Online. 2022)

【はじめに】

不育症の既知の原因には染色体異常、子宮奇形、抗リン脂質症候群、内分泌障害などがありますが、半数以上は原因不明のままです。近年、流産と感染症の関連性を示唆する研究が増えており、慢性子宮内膜炎や腟内・子宮内細菌叢異常が流産リスクと関連していることが報告されています。こちらを調査した報告をご紹介いたします。

【ポイント】

生殖器内細菌叢異常(特に子宮内膜におけるLactobacillus cristatusの減少とGardnerella vaginalisの増加)が不育症の新たなリスク因子となる可能性があります。

【引用文献】

Pirkko Peuranpää, et al. Reprod Biomed Online. 2022 Nov;45(5):1021-1031. doi: 10.1016/j.rbmo.2022.06.008.

【論文内容】

子宮内膜または腟内細菌叢が不育症と関連しているかどうかを調査することを目的としています。2018年3月から2020年12月に、フィンランドの大学病院で、2回以上の連続した流産を経験した47名の女性と、流産歴のない39名の健康なコントロール女性から子宮内膜および腟サンプルを採取しました。16S rRNA遺伝子アンプリコンシーケンシングを用いて子宮内膜および腟内細菌叢を分析し、不育症群とコントロール群の間、そして個々の腟内サンプルと子宮内膜サンプルの間で比較しました。真菌叢組成は、内部転写スペーサー1アンプリコンシーケンシングを用いて分析されました。モデルはBMI、年齢、出産歴について調整され、偽発見率補正P値(q値)を用いてq < 0.05で名目上の統計的有意性を定義しました。
結果:
Lactobacillus cristatusは不育症群の子宮内膜サンプルでコントロール群と比較して少なく(平均相対存在量17.2% vs. 45.6%、q = 0.04)、Gardnerella vaginalisは不育症群でコントロール群よりも子宮内膜(12.4% vs. 5.8%、q < 0.001)および膣(8.7% vs. 5.7%、q = 0.002)サンプルの両方で多く検出されました。個々の腟内と子宮内膜細菌叢組成は強く相関していました(R = 0.85、P < 0.001)。真菌は子宮内膜サンプルの22%、腟内サンプルの36%で検出されました。

【私見】

本研究は不育症と生殖器内の微生物叢異常の関連を示した重要な知見です。研究手法としては、細菌の16S rRNA遺伝子のV3-V4領域と真菌のITS-1領域を対象としたPCRアンプリコンをIllumina MiSeqを用いて2×300 bpのリードでシーケンシングし、微生物叢の組成を解析しています。国内で言うと、varinosと同じ検査手法です。
過去の研究ではウレアプラズマも不育症との関連が示唆されていますが、16S rRNA遺伝子のV3-V4領域の増幅では、ウレアプラズマは引っかかってこないのか、陽性症例がすくないのかどちらかですね。
細菌性腟症が早期および後期流産と関連するという先行研究や、妊娠初期の腟内のLactobacillus減少と高い細菌多様性が流産と関連するという研究、そして今回の研究からも不育症ではやはり生殖器内細菌叢が影響しているのでは、と考えています。

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文責:川井清考(院長)

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