外部ニッチという概念:帝王切開子宮瘢痕(Am J Obstet Gynecol. 2025)

【はじめに】

帝王切開率は世界的に増加しており、2030年までに全出産の約30%に達すると予測されています。帝王切開後の瘢痕形成不全による「ニッチ」(niche、isthmocele、CS defectと記載されます。主流はnicheです。)は、不妊・周産期合併症、異常性器出血など長期合併症の一つとなります。この研究では、子宮摘出症例を用いて、子宮の内側境界部のニッチだけでなく、外側および双方向ニッチの存在とその特徴を評価しています。

【ポイント】

子宮組織サンプル検査では経腟超音波よりもニッチ検出率が高く(91% vs. 83.5%)、帝王切開1回でも50%以上の症例でニッチ形成される可能性を示されました。また外部ニッチを意識することも重要です。

【引用文献】

Kobra Tahermanesh, et al. Am J Obstet Gynecol. 2025 Apr;232(4):373.e1-373.e10. doi: 10.1016/j.ajog.2024.10.010.

【論文内容】

過去に帝王切開を受け、異常子宮出血で子宮全摘術を受けた患者における異なるタイプのニッチの有病率と測定値の比較分析を行うことを目的とした横断研究です。
過去に帝王切開を受け、異常子宮出血で子宮全摘術を受けた200名の患者を対象に研究を実施しました。内部ニッチ、外部ニッチ、双方向ニッチの有病率、測定値(高さ、残存筋層厚、および隣接筋層厚)、および分類を子宮全摘標本と子宮全摘前の経腟超音波所見で比較しました。副次評価項目として、過去の帝王切開回数に基づく子宮組織サンプルにおけるニッチの存在(2mm以上)を調査しました。
結果:
研究参加者の平均年齢は48.19歳で、30%が帝王切開を1回しか受けていませんでした。注目すべきことに、超音波検査でニッチが検出されたのは83.5%(内部ニッチ 83%、外部ニッチ 0%、双方向ニッチ 0.5%)、子宮全摘後の組織サンプルでは91%(内部ニッチ 45%、外部ニッチ 4%、双方向ニッチ 42%)でした(P=0.008)。内部ニッチは一般的で、ニッチの存在と過去の帝王切開回数との間に有意な関連がありました。帝王切開を1回受けた患者の23.3%に内部ニッチ(外部ニッチ 25%、双方向ニッチ 35.7%)がありました。また、外部ニッチ単独は子宮全摘サンプルの4%で検出されましたが、超音波検査では観察されませんでした。残存筋層厚や隣接筋層厚などの重要なパラメータは、超音波と組織サンプル間で顕著に異なり、ニッチ検出方法の不一致を強調しています。残存筋層厚は超音波報告では2.8~24mm(7.68±3.09mm)、組織サンプルでは0~25mm(4.28±2.71mm)でした(P<0.001)。隣接筋層厚は超音波報告では6~29mm(17.08±4.53mm)、組織サンプルでは7.5~30mm(16±5.03mm)でした(P<0.001)。この研究は、帝王切開の既往がある患者における正確なニッチ評価の重要性を強調しています。

【私見】

従来の研究で注目されてきた内部ニッチだけでなく、外部ニッチおよび双方向ニッチの評価の重要性を強調しています。外部ニッチや双方向ニッチは超音波検査で見逃される傾向があり、これが残存筋層厚の過大評価につながる可能性があります。これは漿膜をひろっていることも理由のひとつなのでしょうか。リスク評価は今までも超音波で測定した残存筋層厚を基準としていますので、カットオフ値は大きく考え直す必要はないかと思っています。
帝王切開回数増加とニッチ形成リスクの関連が示されていますが、1回の帝王切開でも高率にニッチ形成があるのですね。van der Voetらの2014年の前向きコホート研究で報告された62%という高いニッチ発生率と一致しています。
創傷治癒障害、血管新生不足を最小化しニッチ形成が最小化する帝王切開層の縫合方法、これからより確立されていくんでしょうね。

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文責:川井清考(院長)

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