rLH+rFSH併用によるART卵巣刺激の有効性(Cochrane Database Syst Rev. 2017)
【はじめに】
生殖補助医療では適切な卵巣刺激を行うことで治療成績が向上します。以前はHMG製剤を用いることが多かったのですが、最近ではHMG製剤の供給不足もありrFSHが主に使用されています。その結果として成長する卵胞が内因性LH以外に曝露されなくなるためHMG製剤を用いた刺激と比較して、相対的にLH比率が低下します。rLHを追加することで生児出生率が向上するかどうかが検討されています。本研究は、rLH+rFSH併用がrFSH単独と比較してART卵巣刺激における有効性と安全性にどのような影響を及ぼすかを評価したシステマティックレビューの更新版です。
【ポイント】
rLH+rFSH併用は、rFSH単独と比較して、生児出生率の明確な向上を示しませんでしたが、継続妊娠率の改善が示唆されました
【引用文献】
Monique H Mochtar, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2017 May 24;5(5):CD005070. doi: 10.1002/14651858.
【論文内容】
ART卵巣刺激においてrLHとrFSHを併用することが、rFSH単独と比較して生児出生率および安全性にどのような影響を与えるかを検討することを目的としました。2016年6月までに報告された無作為化比較試験(RCT)を検索し、rLH+rFSH併用群とrFSH単独群を比較しました。主要評価項目は生児出生率とOHSS発症率、副次評価項目は継続妊娠率、流産率、治療キャンセル率としました。
結果:
36件のRCT(8125名の女性)が含まれました。
- 生児出生率:rLH+rFSH併用がrFSH単独と比較して有意な改善を示しませんでした(OR 1.32, 95% CI 0.85–2.06; n=499, 4試験, I2=63%)。
- OHSS発症率:両群間で大きな差は認められませんでした(OR 0.38, 95% CI 0.14–1.01; n=2178, 6試験, I2=10%)。
- 継続妊娠率:rLH+rFSH併用は、rFSH単独と比較して継続妊娠率の改善が示唆されました(OR 1.20, 95% CI 1.01–1.42; n=3129, 19試験, I2=2%)。
- 流産率:有意な差は認められませんでした(OR 0.93, 95% CI 0.63–1.36; n=1711, 13試験, I2=0%)。
- 治療キャンセル率:低卵巣反応によるキャンセル率には有意な差がありませんでした。(OR 0.77, 95% CI 0.54–1.10; n=2251, 11試験, I2=16%)。
サブグループ解析を示します。
- ダウンレギュレーション法の違い(GnRHアゴニスト vs. GnRHアンタゴニスト)rLH併用による生児出生率および継続妊娠率への影響は、GnRHアゴニスト群とGnRHアンタゴニスト群の間で有意な差は認められませんでした(P = 0.19, I2 = 42.3%)。GnRHアンタゴニスト群ではOHSSのリスク低下の可能性が示唆されましたが、統計的有意性は得られませんでした。
- Poor Responder
低卵巣反応群において、rLH併用群の継続妊娠率が高くなりました(OR 2.06, 95% CI 1.20–3.53, n=79, 3試験, I2 = 0%)。サブグループ間の比較ではP = 0.04, I2 = 76.9%と高い異質性が認められたため、慎重な解釈が必要とされています。 - 高齢女性(35歳以上)
高齢女性を対象とした試験では、rLH併用による生児出生率への明確な影響は示されませんでした(P = 0.50, I2 = 0%)。ただし、高齢群の一部では卵巣刺激の最適化においてrLH併用の可能性が示唆される結果も見られました。
【私見】
本研究の結果は、rLHの追加が生児出生率に大きな影響を与えないことを示唆しています。しかし、継続妊娠率の向上が示された点は注目に値します。特に低卵巣反応群や高齢女性では、rLHの併用が有益である可能性は否定できません。
この報告の後に発刊されたESHRE卵巣刺激ガイドライン2020によると、一般集団においてrFSH単独とrLH併用の生産率に明確な差は認められませんでした。しかし、GnRHアゴニストを用いた刺激においては、rLH追加により継続妊娠率が有意に高くなることが示唆されています。また、低卵巣反応者に関する小規模RCTではrLH前治療が生産率に有益な可能性が示されましたが、大規模RCT(Humaidan, et al., 2017)ではその効果が確認されませんでした。高齢女性についても、LH補充の効果は限定的とされています。
今後の研究では、特定の患者群(例:poor responder患者、WHO I群排卵障害女性、反復着床不全患者)におけるrLHの有用性を詳細に評価する必要がありそうです。
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文責:川井清考(院長)
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