17,20-リアーゼ欠損症の新規変異を持つ女性の体外受精出産成功例(J Assist Reprod Genet. 2024.)

17,20-リアーゼ欠損症は、CYP17A1遺伝子の変異による稀少な内分泌代謝疾患です。CYP17A1遺伝子の変異は主に17-水酸化酵素欠損症と17,20-リアーゼ欠損症を引き起こします。17-水酸化酵素欠損症は先天性副腎過形成症の1%未満を占め、17,20-リアーゼ欠損症はさらに稀少です。2023年1月時点で、Human Gene Mutation Disease Databaseに登録されているCYP17A1遺伝子の病的変異は135個あり、そのうち17,20-リアーゼ欠損症を引き起こすものは7例のみです。今回、新規のCYP17A1遺伝子変異を持つ女性患者の体外受精による出産成功例をご紹介いたします。

【ポイント】

17,20-リアーゼ欠損症新規変異を持つ女性の体外受精出産成功例です。高P値になること、妊娠後合併症が高いことなどがわかります。

【引用文献】

Hou Z, et al. J Assist Reprod Genet. 2024. Doi:10.1007/s10815-024-03366-5

【論文内容】

持続的な高プロゲステロン値を示す不妊症患者における遺伝的原因を調査することを目的としました。患者の血液サンプルからゲノムDNAを抽出し、Illumina NovaSeqプラットフォームを用いて全ゲノムシークエンス(NGS)を実施しました。患者の臨床症状に関連する可能性のあるSNVsおよびIndelsを同定するためのバイオインフォマティクス解析を行い、これらの変異はサンガーシークエンスにより確認されました。

結果として、患者のCYP17A1遺伝子にc.1096 G>T(p.Val366Leu)の点変異が同定されました。野生型と比較して、変異体では全体的および局所的な三次元構造に有意な変化は認められず、分子ドッキング解析でも結合エネルギーに顕著な差は認められませんでした。文献調査により、この変異部位はCYP17A1酵素がシトクロムb5(Cyt b5)と相互作用する領域に位置することが判明しました。

【私見】

当症例の体外受精から出産までの経過を時系列でまとめます。
採卵:
高プロゲステロン下での体外受精を実施
14個回収卵子、2個の良好胚盤胞凍結
胚移植:
初回:デキサメサゾン0.75mg/日を周期3日目から開始したが高Pのままでキャンセル
2回:リュープロレリン3.75mg+デキサメサゾン0.75mg/日継続しP低下してから胚移植し妊娠成立
妊娠経過:
17週より高血圧、27週ごろ降圧剤抵抗性、29週低K血症、31週3日:重症妊娠高血圧腎症のため帝王切開

同様の症例を経験したことがあり、長い間不妊治療に向き合っていただきましたが、私は結果を出すことができませんでした。この症例報告をみて、もっと適切な情報提供、そして治療法を提案できたのかなと感じてしまいます。
医師として、毎日自己研鑽を始めたのも、信じてついてきてくれたのに救えなかった患者様がたくさんいるからです。同じような患者様が現れた時のためにブログとして残しておきたいと思います。

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文責:川井清考(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

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