クロミフェン耐性PCOS女性の経腟的卵巣多孔術によるIVF改善効果 (J Assist Reprod Genet. 2024)

PCOSの排卵障害に対して1985年Gjönnaessが腹腔鏡下卵巣多孔術(LOD)を報告し、CC抵抗性患者の50%以上で排卵が誘発されることを示しました。ただし、腹腔鏡での実施となることなどから中々ハードルが高く、最近では経腟的卵巣多孔術が試みられています。クロミフェン耐性PCOS女性の経腟的卵巣多孔術によるIVF改善効果を評価した報告をご紹介いたします。

【ポイント】

クロミフェン耐性PCOS患者における卵巣刺激直前の経腟的卵巣多孔術により、胚質、着床率、継続妊娠率が著明に改善しそうです。

【引用文献】

Rubin SC, et al. J Assist Reprod Genet. 2024. doi: 10.1007/s10815-024-03362-9

【論文内容】

クロミフェン耐性PCOSかつ体外受精不成功歴のある患者における経腟的卵巣多孔術(TVOD)体外受精成績への影響を評価することを目的としました。
2008年から2011年に、超音波検査でPCOSと診断され、高用量クロミフェンによる排卵誘発に失敗した19名の患者を前向きに追跡しました。
「高用量クロミフェンによる排卵誘発に失敗」とは、具体的には:クロミフェンを最大150mg/日まで増量して5日投与しても排卵がおこらず、メトホルミン併用療法も無効、さらに血中AMH高値(>5.0)、高い卵胞数(AFC>40)という特徴を持つ症例としています。
結果:
TVOD前後で新鮮胚移植周期を実施した15名の患者において、回収卵子数(7.2±5.9 vs. 13.2±5.9, p=0.007)、成熟卵子数(4.6±3.4 vs 9.5±5.2, p=0.002)、胚数(3.8±2.7 vs. 8.5±4.5, p=0.0002)、胚盤胞数(0.73±1.33 vs. 2.77±2.7, p=0.037)が増加しました。全体外受精周期において、TVOD前23周期とTVOD後6ヶ月以内21周期を比較すると、新鮮胚移植着床率(10% vs. 37%, p=0.001)、臨床妊娠率(17.4% vs. 61.9%, p=0.002)、継続妊娠率(4.4% vs. 47.6%, p=0.014)が改善しました。

【私見】

経腟的卵巣多孔術は腹腔鏡卵巣多孔術下と異なり卵巣への熱損傷や癒着のリスクが低いこと、入院が基本必要ないことの利点があります。
卵巣多孔術の作用機序は完全には解明されていませんが、アンドロゲン産生の抑制、FSH感受性の改善、VEGFやIGF-1の低下など、複数の機序が考えられています。今回の研究のもととなる先行論文ではFSH300単位で卵巣反応不良であった群で経腟的卵巣多孔術後の血清・卵胞液テストステロンがさがって卵巣反応が回復しています(B Xu, et al. Reprod Biol Endocrinol. 2020.. doi: 10.1186/s12958-019-0559-7.)。
今回の検討では、【経腟的卵巣多孔術併用卵巣刺激プロトコール】は下記の通りです。前周期からのピルロング法。消退出血終了後、卵巣刺激開始2日前に経腟的卵巣多孔術を実施します。プロポフォール麻酔下で17G採卵針、170mmHgの持続吸引下で各卵巣を20-50回穿刺し、5mm以上の卵胞は全て吸引します。2日後からFSH卵巣刺激開始してhCG10000単位でトリガーしています。
一日平均FSH投与量は159.4単位となっています。

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文責:川井清考(院長)

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