抗セントロメア抗体は体外培養マウス卵子の受精能を阻害する (Am J Reprod Immunol. 2024)

【はじめに】
抗セントロメア抗体(ACA)は染色体のセントロメア領域に対する自己抗体です。全身性強皮症の一部の患者さんで陽性となることが知られていますが、自己免疫疾患の症状がない場合もあります。不妊クリニックからの報告によると、ACAは受精障害の原因となる可能性が指摘されています(S. Teramoto, et al. Reproductive Biomedicine Online 2024、N. Hidaka, Medical Bulletin of Fukuoka University 2015、M. Tokoro, et al. Fertility and Sterility 2015)。
今回は、体外培養マウス卵子を用いた抗セントロメア抗体の影響を報告いたします。

【ポイント】
抗CENP-A抗体は第二減数分裂中期の染色体整列を阻害し、顕微授精後の前核形成異常を引き起こします。

【引用文献】
Shioya M, et al. Am J Reprod Immunol. 2024. doi:10.1111/aji.70024

≪論文内容≫

抗セントロメア自己抗体は受精障害と関連していますが、因果関係は不明であり実験モデルが必要とされています。23日齢マウスから未成熟卵子を採取し、抗ヒトCENP-Aポリクローナル抗体を含む培養液中で18時間体外成熟培養を行い、卵子の成熟度と染色体/紡錘体構造を評価しました。
結果:
抗体暴露は率には影響しませんでしたが、最高濃度(70.0 μg /mL)で第一極体形成率が13%低下しました。第二減数分裂期卵子の染色体/紡錘体を染色し、整列/樽状(AB)、散在/弱染色(SW)、凝縮/欠如(CA)に分類しました。抗体暴露により、用量依存的にABが減少しSWとCAが増加しました。0μg/mL、17.5μg/mL、35.0μg/mL、70.0μg /mL抗体群でのAB/SW/CA比率は、それぞれ86/14/0、86/14/0、35/65/0、0/0/100でした。顕微授精後、前核数を6時間後に計測したところ、抗体暴露により2前核卵子が減少し、非2前核卵子が用量依存的に増加しました。

≪私見≫

本研究は、抗CENP-A抗体が卵子成熟に与える影響を詳細に検討した重要な基礎研究です。培養液中に添加された抗体が卵子内に侵入するメカニズムについては、Fcγ受容体を介した経路や他の経路の存在が示唆されていますが、本研究では直接的な証明はなされていません。この点は今後の研究課題といえます。
実際、抗CENP-A抗体をもつ全員が異常受精となるわけではなく、用量依存での結果であるように、なんらかの防御機構があるはずです。今回の研究が何らかの臨床医療成績改善の糸口になっていけばなと感じています。

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文責:川井清考(院長)

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