体外受精における成長ホルモン投与は無効:ランダム化比較試験(Hum Reprod. 2024)

成長ホルモン欠乏が不妊症と関連しており、治療によって予後が改善される可能性は以前より議論されています。IGF-1が低い成長ホルモン欠乏になるため、成長ホルモン投与は有効である可能性がありますが一般母集団でIGF-1は通常測定しないため、どのような症例に成長ホルモン投与が有効かわかっていません。今回の報告は、体外受精を受ける一般患者に成長ホルモン投与が生殖関連予後を改善するかどうか調査したランダム化比較試験です。

≪ポイント≫

一般体外受精患者への成長ホルモン投与は、胚移植率、流産率、臨床妊娠率など生殖関連予後の改善に寄与しないことが、最大規模のランダム化比較試験で示されました。

Mourad A, et al. Hum Reprod. 2024 Dec. doi: 10.1093/humrep/deae251.

カナダのモントリオールOVOクリニックで実施された第III相オープンラベルランダム化比較試験です。2014年6月から2020年1月に、288名の患者がGnRHアンタゴニスト法でのIVF治療を受けました。患者は1:1の割合で成長ホルモン投与群とコントロール群にランダムに割り付けられました。
介入群には卵巣刺激開始日から採卵日まで、毎日2.5mgの成長ホルモンを皮下注射で投与しました。主要評価項目は臨床的妊娠率で、副次評価項目として採卵数、良好胚数、成熟率、受精率、着床率、流産率が設定としました。
結果:
288名中210名を2群に割り付けました。平均年齢は38.0歳、平均BMIは25.1、平均AMHは2.51ng/mlでした。
卵巣刺激は、総ゴナドトロピン投与量(成長ホルモン群:4,600IU vs. コントロール群:4,660IU、P=0.752) 、刺激日数(11.4日 vs. 11.7日、P=0.118) ・子宮内膜厚(10.63mm vs. 10.94mm、P=0.372)に差はありませんでした。
intention to treat(ITT)解析およびper protocol解析のいずれにおいても生殖関連予後に差はありませんでした。
採卵数(11.7個 vs 11.2個、P=0.613)、成熟卵子数(8.5個 vs 8.6個、P=0.851)、成熟率(73.8% vs 78.4%、P=0.060)、受精率(64.3% vs 67.2%、P=0.388)、良好胚数(2.5 vs 2.6個、P=0.767)のいずれにも有意差はありませんでした。 ・新鮮胚移植での着床率(38.2% vs 39.5%、P=0.829)、流産率(26.5% vs 31.1%、P=0.653)、臨床的妊娠率(43.6% vs 50.0%、P=0.406)、出生率(32.1% vs 33.3%、P=0.860)にも差はありませんでした。

≪私見≫

これまで成長ホルモン投与の有効性を示唆する小規模な研究はありましたが、本研究は最大規模のランダム化比較試験として、一般的なIVF患者への成長ホルモン投与の有効性を否定する結果となりました。比較群でIGF-1も測定しており、IGF-1に差がないことも確認しています。
IGF-1開始前(ng/nl) 介入群:139.6 (42.4) コントロール群:132.0 (37.3)
IGF-1開始後 (ng/nl) 介入群:229.6 (72.7) コントロール群:125.1 (34.6)
IGF-1比 介入群:1.71 (0.55) コントロール群:0.98 (0.24)

ただし、成長ホルモン療法は、卵巣刺激反応不良者(Soodら、2021年)、卵質不良(Gongら、2020年;Tesarikら、2020年;Schefflerら、2021年)、胚質不良(Liuら、2019年)、反復着床不全(Chenら、2018年;Hart、2019年)、子宮内膜菲薄化(Cuiら、2019年;Liuら、2019年)症例などには有効である可能性が残っているため、アドオン治療として今後も注視していく必要がありそうです。

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文責:川井清考(院長)

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