精子形態率でみたIVF・ICSI生殖予後(Hum Reprod. 2024)
精子形態異常はDNA損傷、染色体異常、運動率低下などの構造的欠陥や機能不全の指標となり得ます。そのことから、奇形精子症は、受精率および妊娠率の観点から、媒精の生殖予測因子と長い間提唱されてきました。しかしながら、最近の研究では否定的な意見も出てきており、精子形態評価の標準化ができていないこともふまえて精子形態率が体外受精のバイオマーカーとして適切かどうか疑問視する意見が出てきています。
総精子数と運動率が正常なカップルのなかで奇形精子の程度により媒精・顕微授精の成績が変化するかどうか調査した報告をご紹介いたします。
≪ポイント≫
精子正常形態率が、総精子数と運動率が正常なカップルにおいて、生児出生、継続的妊娠、臨床的妊娠、受精障害の観点から、媒精・顕微授精の選択決定に与える価値は限定的でありそうです。
≪論文紹介≫
Toan D Pham, et al. Hum Reprod. 2024 Nov 13:deae252. doi: 10.1093/humrep/deae252.
総精子数と運動率が正常なカップルの中で、精子形態率が媒精よりも顕微授精の方が生殖予後改善に努めるマーカーになるかどうか調査したランダム化比較試験の二次解析です。
不妊症で総精子数と運動率が正常な1,064組のカップルを対象に、顕微授精と媒精を比較しました。体外受精・顕微授精の既往が2回以下であり、男性パートナーがWHO精液検査・処理マニュアル第5版に従って正常な総精子数と運動性を有しているカップルを適格基準としました。精子形態は、初診時に得られたサンプルから測定しました。評価項目として転帰、生児出産、妊娠継続、臨床的妊娠、受精障害としました。
結果:
両群における精子正常形態率の中央値は3%(四分位範囲1~6%)でした。生児出生率は顕微授精群で(184/532)34.6%、媒精群で(166/532)31.2%でした。ロジスティック回帰分析では、生児出生率、妊娠継続率、臨床的妊娠率、受精障害率において、精子形態と顕微授精と媒精の治療効果との間に有意な差は認められませんでした(それぞれP= 0.181、0.153、0.168、0.788)。制限付き三次スプラインを用いた解析では、精子形態と治療効果の間に交互作用は認められませんでした。
≪私見≫
WHO第5版マニュアルのデータである正常形態精子割合の中央値15%に対して、今回の研究の中央値は両群とも3%でした。母集団の違い、検査評価の基準の違い、様々あります。現在のところ、精子形態率を指標とした媒精・顕微授精の強いリコメンドがあるわけではないので、不妊治療施設別の成績や精液所見別項目や過去の体外受精成績など総合的な判断で治療法を決定されていくのが妥当だと考えています。
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文責:川井清考(院長)
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