PGT-A(着床前検査)ASRM committee opinion 2024
異数性判断のための着床前検査のアメリカ生殖医学会でのcommittee opinion2024が発刊されました。アメリカではPGT-A導入率が急速に高まっており、高まり続けることへの懸念を込めての内容となっています。国内でのPGT-Aの位置付けはどうなっていくのでしょうか。要点をさらって記載させていただきます。
≪ポイント≫
複数胚が獲得できる異数性リスクが高い女性にとって、流産や死産リスクを減らすためにPGT-Aは効果的かもしれませんが、現時点では、体外受精治療を受ける全ての不妊患者に対して、胚盤胞生検によるPGT-Aをルーチンで実施することは推奨できません。
≪論文紹介≫
Fertil Steril. 2024 Sep;122(3):421-434. doi: 10.1016/j.fertnstert.2024.04.013.
The use of preimplantation genetic testing for aneuploidy: a committee opinion
≪私見≫
- 予後良好カップル
文献検索により5件のRCT、複数のレトロスペクティブコホート研究、メタアナリシス、系統的レビューから考察されています。成績が改善するという報告があるものの、現段階で予後が良さそうなカップルに対してPGT-Aを勧めることに懸念を示す方向が多い印象を受けます。
現時点では、予後が良さそうなカップルに対して累積生児出生率・初回胚移植の生児出生率上昇・流産率低下を提示する十分なエビデンスがなさそうです。 - 高齢女性
女性の高齢妊娠と定義する年齢が35歳、37歳、38歳、40歳と論文によって異なりますが、PGT-Aは高齢女性(特に卵巣予備能が良好な女性)に有益な役割を果たす可能性がありそうです。 - 高齢男性
高齢男性(特に50歳以上)では胚の異数性リスク上昇などを記載する報告もありますが、現時点では高齢男性に対してはルーチンのPGT-Aを実施すべきではなさそうです。 - 男性不妊
男性不妊症と胚の異数性増加との関連性は一概に説明し難く、PGT-Aをルーチンで行うことは推奨されません。精巣内精子に関してはエビデンスが不足していて議論のテーブルにあげることは難しいとされています。 - 反復流産
妊娠初期流産のメカニズムは、大部分が異数性によるものであり、PGT-Aの妥当性を裏付けるとされています。ただし、良好な研究が数多くないと記載されるに留まっています。 - PGT-A Tips
- 胚盤胞生検は7日目胚盤胞よりも5/6日目胚盤胞の方が正常胚である割合が明確に高そうです。
- 凍結胚盤胞移植が増えるのはストラテジー的に仕方ないと記載されるものの、新鮮胚移植を比べると妊娠高血圧症候群リスクは胎児が大きく生まれるリスクなどを意識すべきだとしています。
- 正確なデータを出すためにICSIをルーチンで行う必要はなさそうです。
- 民族による異数性リスクの層別化は必要ないとされています。
- 生検によるダメージ
着床にとってトロフェクトダームが重要であることを考えると、トロフェクトダームへの損傷が着床を含めた生殖予後に影響を与える可能性は十分あるが、臨床成績には差を与えるほどではないという報告もあり、意識をして生検することが好ましいとされています。 - 凍結胚盤胞を一度融解し生検・PGT-Aに出すことに対する成績低下の懸念のデータはさまざまありますが、もちろん、正常核型胚盤胞の生殖予後に影響を与える可能性があるため、PGT-Aが本当に必要かどうかの判断によるとされています。
- ほとんどの研究では、PGTが産科、新生児、小児の転帰に悪影響を及ぼすことは示されていません。
- PGT-Aの整理
- 妊娠中または出生後に検出される異数性リスクを低減できる可能性
- 妊娠までの期間を短縮できる可能性
- 予後良好群では凍結に回すだけ妊娠までの期間が新鮮胚移植群に比べて遅くなる可能性
- モザイク胚をどのように対応するかというジレンマに直面する可能性
- ラボに負担がかかることが明確であるのと同時にラボのPGT技術に成績結果が左右される可能性
- 生まれてくるはずの胚を検査精度の限界から廃棄してしまう可能性
- 生まれてくるはずの胚をPGT手技によるダメージからダメにしてしまう可能性
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文責:川井清考(院長)
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