HSG(子宮卵管造影検査)の油性造影剤は新生児甲状腺機能に影響を与えるの?(論文紹介)

HSG は、油性または水溶性の造影剤を使用します。油性造影剤は水溶性造影剤に比べてヨードの含有量が多いので、胎児に及ぼす影響が懸念されています。(油性造影剤はイオジン 濃度 480mg/ml、水溶性造影剤は 240-300mg/ml)。オランダのグループはHSGに油性造影剤を使用した方が、その後の妊娠率が向上すると考えているので、油性造影剤の胎児への及ぼす影響を把握することは重要となってきます。
N. van Welieら,Hum Reprod 2020. DOI:10.1093/humrep/deaa049

オランダの27病院で、子宮卵管造影を受ける女性(18〜39歳、1年以上不妊、1119名)を対象に、油性造影剤群(557名)と水溶性造影剤群(562名)にわけておこなったランダム化試験のなかでHSG後6ヶ月以内に妊娠し出産に至った369人(油性造影剤群:214名、水溶性造影剤群:155名)のうち承諾が得られた138人が子供の甲状腺機能検査のデータを油性造影剤群・水溶性造影剤群の使用量や妊娠までの期間などもふくめて比較し検討しています。新生児の甲状腺機能検査は、オランダの先天性甲状腺機能低下症スクリーニング(全新生児のT4測定、T4が異常値の新生児のみTSH測定)を用いています。
T4濃度中央値は、油性造影剤群で87.0 nmol/l、水溶性造影剤群で90.0 nmol/lで差がなく、先天性甲状腺機能低下症のスクリーニング結果が陽性であった新生児はいませんでした。使用した造影剤の量の中央値は、油性造影剤群で9.0 ml、水溶性造影剤群で10.0 mlであり、T4濃度に対する造影群の効果に対する造影量の影響も認められませんでした。彼らの研究では油性造影剤の胎児への及ぼす影響は水溶性造影剤と変わらないとしています。

≪私見≫

油性造影剤の胎児への影響がないことを示した論文になります。ただし、この論文でも何度もディスカッションにでてくるのですが、「日本から過去に報告された研究結果と一致していない。」とされています。この中で日本とオランダの背景の違いが記載されています。この理由が、この理由が日本ではヨードを多く含む食品(海藻類)の消費量が多いことをあげています。日本の妊婦のヨード摂取量は、オランダの妊婦の約3~4倍と推定されています。先天性甲状腺機能低下症の割合自身も日本では0.7%、オランダでは0.05%と差がありますので、本当にそうなのかもしれません。

やはりそう考えると、この論文を鵜呑みにして、すぐにHSGを油性造影剤にきりかえようとは思えないのが私の個人的な見解です。もっと胎児への長期予後や他のグループからの再現性を示すデータ出てきてから再度検討したいと考えています。

文責:川井(院長)

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