反復流産のESHREガイドライン77の推奨(2022年)

反復流産のESHREガイドライン77の推奨を記載します。国内治療指針、アメリカ産婦人科学会(ACOG)ガイドラインとやや異なりますので、総合的な判断が必要と判断しています。
Hum Reprod Open. 2023 Mar 2;2023(1):hoad002. doi: 10.1093/hropen/hoad002.

1.
女性には、流産リスクが最も低いのは20歳から35歳であることを伝えるべきである。
2.
女性には、40歳を過ぎると流産リスクが高まることを伝えるべきである。
3.
ストレスは反復流産に関連するが、ストレスが流産の直接的な原因であるという証拠はないことをカップルに知らせるべきである。
4.
反復流産カップルは、喫煙が生児出産の可能性に悪影響を及ぼす可能性があることを知らされるべきであり、したがって禁煙が推奨される。
5.
反復流産カップルは、肥満や低体重が産科合併症と関連し、生児出産の可能性や一般的な健康に悪影響を及ぼす可能性があることを知るべきである。
6.
正常範囲のBMIを目指すことが推奨される。
7.
反復流産カップルは、過度のアルコール摂取は流産の危険因子である可能性があり、胎児に問題が生じる危険因子(胎児性アルコール症候群)であることが証明されていることを知らされるべきである。
8.
反復流産カップルは、飲酒を制限するよう助言されるべきである。
9.
妊娠既往を含めた病歴や家族歴は、反復流産の診断に有効である。
10.
女性年齢と、過去の流産回数、出生数、その順序を含む完全な妊娠歴に基づいて予後を決定することを推奨している。
11.
流産後検体の遺伝子解析は、ルーチンには推奨されていないが、説明のうえ実施することは可能である。
12.
array-CGHが推奨される。
13.
両親の染色体核型検査は、ルーチンに行う必要はないが個々のリスクを評価した後に実施を検討する。
14.
反復流産女性については、研究目的でない限り、あるいは血栓症の危険因子を有する女性でない限り、遺伝性血栓症のスクリーニングを行わないことを勧める。
15.
反復流産女性に対しては、抗リン脂質抗体(LA、抗カルジオリピン抗体IgGおよびIgM)のスクリーニングを行うことを推奨している。
16.
反復流産女性については、抗β2GPI抗体のスクリーニングを行うことを検討することができる。
17.
反復流産女性におけるHLA検査は、臨床現場では推奨されていない。男児出産後の続発性反復流産となっているスカンジナビア人女性では、予後の目的でHLAクラスII判定(HLA-DRB1*15:01、HLA-DRB1*07、HLA-DQB1*05:01/05:2)のみを考慮することができる。
18.
反復流産女性における抗HY抗体の測定は、臨床現場では推奨されていない。
19.
サイトカイン検査は、臨床の場では反復流産女性に行うべきではない。
20.
反復流産女性ではサイトカイン多型を検査すべきではない。
21.
抗核抗体検査は、説明のうえ考慮され得る。
22.
反復流産女性女性において、末梢血または子宮内膜組織のナチュラルキラー(NK)細胞検査を推奨するには十分な証拠がない。
23.
反復流産女性おける抗HLA抗体の検査は推奨されない。
24.
甲状腺スクリーニング(TSHおよびTPO抗体)は、反復流産女性に推奨される。
25.
TSH値の異常は、反復流産女性ではT4検査でフォローアップすべきである。
26.
PCOS、空腹時インスリンおよび空腹時グルコースの評価は、次回の妊娠予後を改善するために反復流産女性には推奨されない。
27.
高プロラクチン血症の臨床症状(排卵障害)がない反復流産女性には、プロラクチン検査は推奨されない。
28.
卵巣予備能検査は、反復流産女性には日常的に推奨されない。
29.
黄体期不全検査は、反復流産女性には推奨されない。
30.
アンドロゲン検査は反復流産女性には推奨されない。
31.
LH検査は、反復流産女性には推奨されない。
32.
ホモシステイン測定は、反復流産女性には推奨されない。
33.
反復流産女性は、子宮形態評価を受けるべきである。
34.
子宮評価には経腟3D超音波検査が望ましい。
中隔子宮と双角子宮を評価できる。
35.
ソノヒステログラフィー(SHG)は、子宮奇形の診断において子宮卵管造影(HSG)よりも正確である。
36.
ミュラー管由来の子宮奇形と診断された場合は、腎臓や尿路の検査を考慮すべきである。
37.
MRIは反復流産女性における子宮奇形の評価の第一選択としては推奨されないが、3D超音波が使用できない場合には使用を考慮する。
38.
反復流産女性は、腺筋症を除外するために2D超音波検査を受けるべきである。
39.
反復流産カップルでは、男性パートナーのライフスタイル(父親年齢、喫煙、飲酒、運動パターン、体重)を評価することが推奨される。
40.
反復流産女性カップルで精子DNA断片化を評価することは、診断目的のために考慮され得る。

反復流産女性の出生率を高める治療法
41.
予後予測ツール(Kolte & Westergaard)は、反復流産カップルのその後の生児出産の可能性を推定するために使用することができる。
42.
胎児または親の核型異常の結果が出たすべてのカップルは、遺伝カウンセリングを受けるべきである。
43.
胎児または親の核型異常の結果が出たすべてのカップルは、利用できる可能性のある治療法について、その長所と短所を含めて説明を受けることができる。
44.
先天性血栓症を有し、反復流産女性に対しては、研究目的でない限り、あるいは静脈血栓塞栓症予防の適応がある場合を除き、抗血栓予防薬を使用しないことを勧める。
45.
抗リン脂質抗体症候群の検査基準を満たし、3回以上の流産のある女性には、無治療よりも、妊娠前から低用量アスピリン(75~100mg/日)を投与し、妊娠検査薬陽性の日から予防的にヘパリン(未分画ヘパリンまたは低分子ヘパリン)を投与することを勧める。
46.
2回流産していて抗リン脂質抗体症候群の検査基準を満たした女性に対し、臨床研究においてのみ抗凝固療法を行うことを提案している。
47.
妊娠前または妊娠初期に生じた明らかな甲状腺機能低下症は、反復流産女性ではレボチロキシンで治療すべきである。
48.
潜在性甲状腺機能低下症と反復流産女性に対するレボチロキシンの治療効果に関しては、相反するエビデンスがある。
49.
潜在性甲状腺機能低下症で反復流産女性が再び妊娠した場合は、妊娠初期(7〜9週)にTSH値をチェックし、甲状腺機能低下症はレボチロキシンで治療すべきである。
50.
甲状腺抗体陽性と反復流産女性が再び妊娠した場合は、妊娠初期(7〜9週)にTSH値をチェックし、甲状腺機能低下症はレボチロキシンで治療すべきである。
51.
甲状腺抗体陽性である甲状腺機能正常女性は、レボチロキシンで治療すべきではない。
52.
反復流産および黄体機能不全である女性の生児出生率を改善するためにプロゲステロンの使用を推奨するには、十分な証拠がない。
53.
反復流産および黄体機能不全である女性の生児出生率を改善するためにhCG使用を推奨するには、十分な証拠がない。
54.
反復流産および糖代謝異常のある女性の流産を予防するために、妊娠中のメトホルミン補充を推奨するには十分な証拠がない。
55.
反復流産女性の妊娠前カウンセリングには、予防的ビタミンD補充を考慮するよう一般的なアドバイスを含めることができる。
56.
ただ1つの小さなRCT(Rikken et al 2021)が、子宮鏡下中隔切除術による妊娠喪失率減少の有用性を示していない。
57.
子宮頸管が正常な双角子宮および反復流産女性に対しては、形成術は推奨されない。
58.
単角子宮および反復流産女性に対しては、形成術は推奨されない。
59.
重複子宮および反復流産女性に対しては形成術を支持する十分な証拠はない。
60.
反復流産女性における粘膜下筋腫または子宮内膜ポリープの子宮鏡下摘出を支持する十分な証拠はない。
61.
子宮筋腫の外科的切除は、反復流産女性には推奨されない。子宮内腔圧排がある筋腫を摘出することを推奨するには、十分な証拠がない。
62.
子宮内癒着の外科的除去が妊娠転帰に有益であるというエビデンスは不十分である。反復女性において子宮鏡下で子宮内癒着を除去した後は、癒着の再発を予防するための予防措置を講じる必要がある。
63.
妊娠中期流産の既往があり、子宮頸管機能低下が疑われる女性には、子宮頸管評価のための超音波検査を継続的に実施すべきである。
64.
単胎妊娠で、子宮頸管無力症に起因する妊娠中期反復流産女性では、子宮頸管縫縮術を考慮すべきであるが生児出生率を高めるという証拠はない。
65.
反復流産カップルは、喫煙、飲酒、肥満、過度の運動が、生児出産の可能性に悪影響を及ぼす可能性があることを知らされるべきであり、したがって、禁煙、標準体重、飲酒の制限、通常の運動パターンが推奨される。
66.
反復流産カップルにおいて、PICSIによる精子選択を支持する証拠はない。PICSIによる精子選択は、RCTで示されたように、35歳以上の女性(RPLではない)における妊娠損失率を有意に減少させるが、RPLのカップルにこの治療を推奨するには、より多くのエビデンスが必要である。
67.
男性のための抗酸化物質が生児出産の可能性を高めることは示されていない。コクラン・レビューでは、男性の抗酸化物質は出生率を改善したが、流産リスクを有意に減少させるものではなかった。
68.
リンパ球免疫療法は有意な効果がなく、重篤な副作用がある可能性があるため、原因不明反復流産治療として用いるべきではない。
69.
妊娠初期に免疫グロブリンを反復大量投与することで、原因不明反復流産が4回以上ある女性の出生率が改善する可能性がある。
70.
グルココルチコイドは、原因不明反復流産または免疫学的バイオマーカーを選択した反復流産女性の治療としては推奨されない。
71.
ヘパリンや低用量アスピリンは、原因不明反復流産女性の出生率を改善しないという証拠があるため、推奨されない。
72.
葉酸は、神経管欠損症を予防するために妊娠前から定期的に開始されているが、原因不明反復流産女性の流産予防することは示されていない。
73.
プロゲステロン腟剤は、3回以上の流産を経験し、その後の妊娠で性器出血を起こした女性の生児出生率を改善する可能性がある。
74.
原因不明反復流産女性の生児出生率を改善するために、イントラリピッド治療を推奨するには十分な証拠がない。
75.
原因不明反復流産女性の生児出生率を改善するためにG-CSF治療を推奨する証拠はない。
76.
原因不明反復流産女性の生児出生率を改善するために子宮内膜スクラッチングを推奨する証拠はない。
77.
反復流産女性からマルチビタミンのサプリメントの使用について質問があった場合は、妊娠中でも安全なマルチビタミンのサプリメントについてアドバイスする必要がある。

文責:川井清考(院長)

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