歳を取ったら精液所見はどうなるのでしょうか?
3年以上の経過で体外受精が必要になることもあります。
≪研究の紹介≫
Intra-individual changes in sperm parameters and total motile count with time among infertile men
不妊男性における総運動精子数の経時的な変化
Karavani G, et al. Andrology. 2024 Apr 30. PMID: 38685862.
はじめに
精子検査所見と、男性パートナーの年齢との関連性は従来から研究されていて、年齢とともに精液量や精子運動率、精子正常形態率が低下することはわかっていますが、精子濃度については低下するかどうか示されていません。病的な原因がない場合は、精子数は比較的保たれているという知見もあります。また、個人個人の経時的な精液検査所見変化がどうなっていくのかについてのデータは乏しく状況です。この研究では、経時的に経過を追うことができた症例を集めて、同一症例でどのような変化が起きたかを検討したものです。
研究の内容
目的:
不妊男性の精液検査のパラメータと総運動数が時間の経過とともにどのように変化するかを評価することが目的です。
対象と方法:
この後ろ向きコホート研究では、精液所見を悪化させる明らかな原因のない不妊男性で、2005年から2021年の間に3ヶ月以上間をあけて少なくとも2回精液検査を行った症例を対象としました。精液検査の間隔が、3-12ヶ月、1~3年、3~5年、および >5年のグループに分けられました。患者背景と、初回および最後の精液検査所見が比較検討されました。主要評価項目は精子検査所見の変化であり、副次的評価項目は、最初の総運動精子数が1000万を超える男性で、最終的に総運動精子数が500万未満になる割合です。
結果:
合計2018名の男性が研究の対象となりました。初回の精液検査での年齢の中央値は36.2年(四分位範囲:32.8-40.1年)で、精液検査の間隔の中央値は323日(範囲90-5810日)でした。全体的な傾向として、3~12ヶ月と1~3年で精子濃度は増加を示しましたが、精液量、精子運動率、および精子正常形態率に変化はありませんでした。5年以上の間隔をあけて行われた精液検査では、精液量(P<0.05)、精子運動率(P<0.05)、精子正常形態率(P<0.05)および精子濃度が減少しました。時間の経過とともに総運動精子数が有意に減少し (p<0.001)、初回の総運動精子数>1000万の不妊男性では3年後に18%が、5年後に22%が、総運動精子数<500万未満となりました。初回に総運動精子数>1000万を示した男性が、最終的に総運動精子数<5 Mとなることを独立して予測する因子(多変量ロジスティック回帰モデル)は、初回の精液量(オッズ比0.80、p = 0.03)、初回の総運動精子数(オッズ比0.98、p = 0.01)、精液検査の間隔が3-5年(オッズ比3.79、p<0.001)および精液検査の間隔が 5年を超えること(オッズ比3.49、p=0.04)でした。
考察:
この研究からは、個人の経過では最初の精液検査から1年間および1-3年の間に精子濃度の改善がすることを示しています。これはおそらく不妊治療や、不妊関連のカウンセリング、生活習慣の修正が関係していると考えられます。精液検査所見は3年以上経過すると減少します。重要なこととして、最初の総運動精子数>1000万(自然妊娠が達成可能な範囲)でも22%近くは、5年間で500万未満(通常、体外受精/顕微授精が必要)に減少しました。この研究のデータは、将来の不妊治療の必要性を最小限に抑えるために、妊娠の方法と時期、精子保存の必要性を考慮しながら不妊男性の家族計画の個別化に役立つ可能性があります。
表. 総運動精子数が1,000万個超から500万個未満に減少することを予測するための多変量ロジスティック回帰モデル
パラメータ | オッズ比 | P値 |
---|---|---|
初回精液量 (mL) | 0.80 | 0.03 |
初回精子運動率 (%) | 0.99 | 0.57 |
初回総運動精子数 (millions) | 0.98 | 0.005 |
初回精子正常形態率 (%) | 0.98 | 0.30 |
精液検査の間隔 < 1年 |
Reference |
|
1–3 年 | 1.17 | 0.64 |
3–5 年 | 3.79 | <0.001 |
> 5 年 | 3.49 | 0.04 |
≪筆者の意見≫
全体的には加齢とともに精液検査所見は悪化していくことは人間の老化があるので予想できることです。しかしながら、不妊男性では不妊治療に際して生殖機能を高めるための治療や、生活習慣の修正をすると予想されることから短期的にはつまり三年間くらいまでは、精液所見が改善するという結果でした。精液検査のパラメータの中でも総運動精子数はもっとも重要なものですが、総運動精子数がもともと良好でも3−5年経つと2割程度の方が、体外受精が必要なくらいまでのレベルに悪化するという結果が示されました。二人目を考える際にはなるべく間隔をあけずに取り組んだほうがよいと思われます。
文責:小宮顕(泌尿器科部長)
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