非男性因子不妊症に対する受精方法による成績差(Fertil Steril. 2024)
非男性因子不妊症に顕微授精を行うことはメリットかデメリットかという議論は絶えず行われています。現在の流れとして、女性年齢が高くても、卵子数が少なくても非男性因子不妊症に対して顕微授精を追加することが決して成績向上につながらないという考え方が主流です。アメリカ生殖医学会におけるビッグデータでみた受精方法の違いによる生殖医療結果をご紹介いたします。
≪ポイント≫
非男性因子不妊症に対しての受精方法(媒精 vs. 顕微授精)による成績の違いは大きくなさそうです。
≪論文紹介≫
Jessica N Tozour, et al. Fertil Steril. 2024 May;121(5):799-805. doi: 10.1016/j.fertnstert.2023.12.041.
着床前検査(PGT)の妊娠転帰に関して、非男性因子不妊症に対する媒精(IVF)よりも顕微授精(ICSI)による受精方法が有益であるかどうかを評価することを目的とした2014年1月から2017年12月までのSARTデータベースを用いたレトロスペクティブコホート研究です。
主要評価項目は移植に適した胚の割合と生児出生率としました。副次評価項目として、35歳以上と35歳未満、採卵卵子数6個未満と6個以上、原因不明不妊症患者の周期における移植に適した胚割合のサブグループ解析を行いました。さらに、媒精と顕微授精の間の分娩週数と出生体重を評価しました。
結果:
30,446件のPGT周期が評価され、そのうち4,867件が媒精、25,579件が顕微授精でした。除外基準を設定し、必要な交絡変数について調整した結果、媒精と顕微授精の治療周期間で移植に適した胚に有意差は認められず、それぞれ41.6%(40.6%、42.6%)、42.5%(42.0%、42.9%)、生児出生率ではそれぞれ50.1%(37.8%、62.4%)、50.8%(38.5%、62.9%)でした。
さらに、35歳以上(35.7% vs. 36.5%、P=.25)、35歳未満(57. 6% vs. 58.6%、P=.21)、採卵数6個未満(32.9% vs. 35.3%、P=.12)、採卵数6個以上(43.9% vs. 44.2%、P=.66)、原因不明不妊(46.4% vs. 48.8%、P=.09)でした。
初回凍結融解胚移植の流産率、出生率、分娩週数、出生体重にも差を認めませんでした。
≪私見≫
非男性因子不妊症に顕微授精を行うと、無駄に卵に傷害を与えてしまうのではないかという考え方が以前からあります。顕微授精は媒精に比べて高度な治療だよという一辺倒な方針ではなく、症例によって意思決定をすすめていくことが大事だと思います。
Tannus S, et al. Hum Reprod. 2017; 32: 119-124
Rosen M.P., et al. Fertil Steril. 2006; 85: 1736-1743
Palermo G.D., et al. Hum Reprod. 1996; 11: 172-176
SARTは研究を行う目的でSART-CORSデータシステムを作成していて、2019年には米国の81%のクリニックがSARTメンバーであり、米国における体外受精の全体外受精周期の90%を占めるとされています。SARTメンバーの一部のクリニックは成績のアルゴリズムに従い、訪問・カルテレビューを受け入れています。国内で考えると日産婦のARTレジストリとJISARTの中間のような存在なのでしょうか。国内データベースも素晴らしいものですが、もう少しクリニック間比較がビッグデータからなされていければ国内成績向上に寄与する気もします。
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文責:川井清考(院長)
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