抗セントロメア抗体と不妊(Reprod Biomed Online. 2024)
抗核抗体は体外受精成績を低下させることが報告されていますが、成績を低下させる抗核抗体の種類やメカニズムはわかっていません。抗セントロメア抗体と不妊は以前より話題になっています。
Shirotaらは、抗セントロメア抗体陽性女性8名と抗セントロメア抗体以外の抗核抗体陽性女性58名の顕微授精成績を比較し、受精率は変わらず、成熟率・胚分割の低下を認めたと報告しています(Shirota K, et al. Fertil Steril 2011;95: 2729-2731.)。Yingらは、抗セントロメア抗体陽性女性20名、抗セントロメア抗体以外の抗核抗体陽性女性51名、抗セントロメア抗体と抗核抗体も陰性である女性116名の体外受精成績を比較して、同様に受精率が変わらず、成熟率・胚分割・着床率の低下を認めたと報告しています(Ying Y, et al. Fertil Steril 2013;100: 1585-1589.)。
ともに症例数が少ないため、さらなる研究が期待されていました。
卵巣刺激が悪さをしている可能性もあり、個人的に低刺激での体外受精でも同様の結果になるのかどうかは皆が興味をもっていた内容です。
国内で低刺激を数多く実施している施設からの抗核抗体染色パターンをもって抗セントロメア抗体の顕微授精の成績への影響を検討した報告をご紹介いたします。
≪ポイント≫
- 抗セントロメア抗体は、主に減数分裂II期以降の障害を通じて、抗核抗体の中で顕微授精後の出生成績に最も強い影響を与える。
- 繰り返す成熟障害・多前核・胚発生異常を観察した場合は抗セントロメア抗体がマーカーとなる可能性がある。
≪論文紹介≫
Shokichi Teramoto, et al. Reprod Biomed Online. 2024. doi: 10.1016/j.rbmo.2024.103864
抗セントロメア抗体(ACA)は、顕微授精後の累積出生率に影響するかどうか調査した報告です。2016年9月から2021年3月まで単一生殖医療施設で顕微授精を受けた30~43歳の女性を対象にレトロスペクティブコホート研究を実施しました。症状がある膠原病患者は除外しました。抗核抗体(ANA)は免疫蛍光染色法を行いました。染色パターンと力価(カットオフ、1:160)に基づいて、ACA陽性(n=28、ACA+)、ACA以外のANA陽性(n=77、ANA+)、ACAとANAの両方陰性(n=3,828、対照)の3群に分けて検討しました。
結果:
累積出生リスクは、ACA+群で他の2群より低くなりました(ACA+群、ANA+群、対照群でそれぞれ7%、31%、46%)(p<0.05)。原因として、減数第一分裂における障害の程度は小さく、主に減数第二分裂、受精、胚分割における障害によるものと考えられました。多前核形成は増加し(対照群に対する相対リスク、5.5;95%CI、3.9-7.7)、良好胚盤胞率は減少しました(相対リスク、0.2;95%CI、0.3-0.5)。多重ロジスティック回帰分析では、ACAは累積出生率と関連していましたが(p<0.05)、他の4つのANA染色パターンは関連していませんでした。
≪私見≫
抗セントロメア抗体陽性症例で、抗H3K9me2抗体染色した結果においてExtra-PNは母体由来であること、MI卵では母体由来の染色体が分散していることが報告されています(Tokoro M, et al. Fertii Steril 2015;104: e305.)。
動物実験でも、マイクロインジェクションまたは培地由来の抗セントロメアタンパク質A抗体は核に到達し、紡錘体-動原体相互作用を阻害し、染色体の合一、直線的配列、分離を妨害し、分離エラーを引き起こすことが証明されています(Li L, et al. J Huazhong Univ Sci Technolog Med Sci 2017;37: 313-318.Liu H, et al.Reprod Biol Endocrinol 2021;19: 127.)。
今回の検討では、治療法までは触れられていません。どのような場合にレスキューが可能なのか、今後の報告に期待したいと思います。
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文責:川井清考(院長)
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