射精から時間が経つと精液検査所見は悪化する?

≪研究の紹介≫

Effects of ejaculation-to-analysis delay on levels of markers of epididymal and accessory sex gland functions and sperm motility

射精から精液検査までの時間が精子運動性に及ぼす影響

J Androl. 2007 Nov-Dec;28(6):847-52. PMID: 17554111.

WHOの精液検査のマニュアルでは、精液検査の際には、精液提出から精液検査開始までできれば30分以内に、遅くても60分以内に行うべきとしています。しかしながら、自宅で精液を採取して医療機関に持参した場合時間がかかってしまうことがあります。この研究は時間が精液検査、特に精子の運動性にどのように影響するかを調べたものです。古いものですが、今でも参考になるのでご紹介いたします。この研究では精巣上体や前立腺精囊腺の機能についても検討していますが、割愛いたします。

研究の概要:
この研究は、射精から精液検査までの時間と精子運動率との関連を検討することを目的として実施されました。不妊の評価を受けた男性1079人の射出精液をWHOのガイドラインに従って解析しました。射精から精液検査までの時間によって3つのグループに分けました: G(<または=30)(検査まで24-30分)、G(31-60)(検査まで31-60分)、G(>60)(検査まで63-180分)。G(>60)では、G(<または=30)(平均の差、8.0%;95%信頼区間[CI]、2.0%-13%)またはG(31-60)(平均の差、6.0%;95%CI、1.0%-12%)と比較して、精子前進運動率が有意に低い結果でした。高速前進運動精子の割合は、G(31-60)(平均の差、3.0%;95%CI、1.0%-5.0%)およびG(>60)(平均の差、6.0%;95%CI、1.0%-10%)と比較して、G(<または=30)で有意に高い結果でした。精子正常形態率形態と生存率には3群間で有意差はありませんでした。 射精から精液検査までの間隔と精子の運動率には負の相関が認められたことになります。男性不妊の評価では、精液検査は射精後60分以内に行うべきであるとしています。

表. 3つのグループの精液検査データの比較

  射精から精液検査まで30分以内 
G≦30
射精から精液検査まで31-60分 
G31-60
射精から精液検査まで60分を超える 
G>60
変数 n =337
中央値(範囲)
n =681
中央値(範囲)
n =61
中央値(範囲)
年齢(歳) 33 (20–58) 34 (20–64) 35 (23–57)
禁欲期間(日) 4.0 (1.0–21) 4.0 (1.0–30) 4.0 (1.0–30)
射精から精液検査までの時間(分) 30 (24–30) 45 (31–60) 70 (63–180)
精液量(mL) 4.0 (1.0–14) 4.0 (1.0–13) 4.0 (0.4–13)
精子濃度 (106/mL) 45 (0.3–370) 48 (0–568) 51 (0.1–360)
総精子数  (106) 170 (1.0–2400) 179 (0–2730) 159 (0.4–1730)
高速前進運動精子の割合 (%) 17 (0–72) 14 (0–78) 10 (0–63)
低速前進運動精子の割合  (%) 28 (2.0–67) 30 (0–78) 24 (0–60)
精子前進運動率(%) 51 (17–79) 50 (0–92) 46 (0–85)
精子正常形態率 (%) 5.0 (0–18) 5.0 (0–20) 5.0 (0–16)
精子生存率 (%) 60 (8.0–79) 55 (0.4–85) 56 (8.0–73)

≪筆者の意見≫

WHOのマニュアルで示されているような結果がでていました。確かに30分以内に検査をすると、もっとも運動性は良い結果です。ただ、表に示したように中央値で見ても3つの群に大きな差はないようです。
この研究では精液検体をどこで採取したかや、採取するまでどのように運搬してきたかなどについてきまりはありませんでした。精液検体は、検査室まで届けられる、という記載のみでした。
60分超えのグループは、61例中8例が自宅からの持参で60分を過ぎてしまい、残りの53例はクリニック内で採取したのですが技術的な問題で長くインキュベーターに入れられていたとの記載がありました。そのほかはどこで採取したか不明です。クリニック内の採取が基本と推察します。
この研究では精液検査所見があまり良くない症例も含まれていますし、検査まで60分を超えたケースでは180分という方も含まれています。このような場合でも大きく運動性が悪くなるわけではないという解釈もできます。なるべく早く精液を提出することに勝るものはないですが、1時間を多少過ぎても前進運動率は平均6-8%低下する程度で、あまり心配しなくてもよいようです(もし60分をこえた場合の前進運動率は、検査結果より6-8%くらい高いという補正をして解釈してもよいかもしれません)。

文責:小宮顕(泌尿器科部長)

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