CYP1A2*1F多型がエストロゲン代謝に影響している?(F S Rep. 2023)

卵巣刺激時の卵胞あたりのエストラジオール(E2)値はアジア人と白人で異なるのでは?ということが以前より報告されています。一番大きな原因として考えられるのが代謝活性による理由です。今回、有力候補であるCYP1A2*1F多型がアジア人と白人のエストロゲン代謝に関連しているかどうかを調査した報告をご紹介いたします。

≪ポイント≫

調整卵巣刺激を実施したアジア人と白人女性の間で採卵決定時の卵胞あたりの血清E2値に差が認められましたが、CYP1A2∗1F多型との関係は今回の報告では関連を見出せませんでした。

≪論文紹介≫

Amy Kaing, et al. F S Rep. 2023 doi: 10.1016/j.xfre.2023.10.002

CYP1A2*1F多型の人種差が、アジア人と白人におけるエストロゲン代謝の違いに影響あるかどうかを調査した前向きコホート研究です。
2019年10月から2021年4月に卵巣刺激またはホルモン補充周期を実施したアジア人または白人女性を対象としました。
主要評価項目は卵巣刺激周期では回収卵子あたりのトリガー日血清E2値、ホルモン補充周期では内膜確認時血清E2値としました。
結果:
71名が登録され、卵巣刺激群55名(白人29名、アジア人26名)、ホルモン補充周期群16名(白人10名、アジア人6名)でした。卵巣刺激群(n=48)で回収卵子あたりのピーク血清E2値は人種によって異なり、白人はアジア人に比べて低値となりました(177.5±64.2 vs. 261.1±139.5pg/mL)。CYP1A2*1F多型は人種による有意差は認めませんでした。Kruskal-Wallis検定による比較では、CYP1A2*1F遺伝子型による回収卵子あたりのピーク血清E2値の差は認められませんでした。BMI、カフェイン摂取量、人種で調整した多変量線形回帰モデルにおいても、有意な相関は認められませんでした。ホルモン補充周期群では、内膜確認日の血清E2値もCYP1A2*1F遺伝子型による差も認められませんでした。

≪私見≫

卵巣刺激時の回収卵子あたりの血清E2値はアジア人と白人とで差がありそうですね。今後、論文を読むときの頭の片隅には入れて評価することが大事だと感じています。
CYP1A2*1F多型の対立遺伝子頻度は先行研究と同様であり、白人では32%(22%〜68%)、アジア人では42%(27%〜66%)であり、人種間差がなさそうです。今回はCYP1A2*1F多型AA型:18名、AC型:24名、CC型:6名と少人数の解析でした。もう少し大きな症例数での検討を待ちたいところです。

rFSH製剤使用における日本人と白人の反応の違い(論文紹介)

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文責:川井清考(院長)

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