子宮内膜症随伴疼痛は、ART成績に影響する?(Hum Reprod. 2023)

子宮内膜症の有病率は生殖年齢の女性の10〜15%に達すると推定されています(Ghiasiら、2020)。子宮内膜症に関連した不妊症の病態生理学は依然として不明ですが、以下の多因子メカニズムが関与していると考えられています。

  • 骨盤腔の炎症性変化による精子と卵子の相互作用障害
  • 卵巣予備能の低下
  • 卵管機能の変化
  • 子宮腺筋症に関連した子宮内膜受容能の障害
  • 性交疼痛による性交頻度の低下

炎症が強いと上記に対して影響を強く及ぼす可能性があります。当研究は、炎症反応が強いと判断される自覚症状と体外受精成績との関連を調査した報告となります。

≪ポイント≫

子宮内膜症随伴疼痛が重度であっても、体外受精による生児獲得率には影響しないことがわかりました。

≪論文紹介≫

C Maignien., et al. Hum Reprod. 2023 Dec 23:dead252. doi: 10.1093/humrep/dead252.

子宮内膜症随伴疼痛が体外受精治療成績に影響を与えるかどうか調査した研究です。
2014年10月から2021年10月まで体外受精を実施した354名の子宮内膜症患者を対象とした観察コホート研究です。子宮内膜症の診断は、経膣超音波検査およびMRI、手術歴がある女性は組織学的検査で確認しました(127症例、35.9%)。
月経困難症(DM)、性交疼痛(DP)、非周期性慢性骨盤痛、胃腸痛、下部尿路痛を、体外受精前に10段階の視覚的アナログスケール(VAS)を用いて評価しました。重度の疼痛とは、少なくとも1つの症状についてVASが7以上であると定義しました。主要評価項目は、患者1人当たりの累積生児獲得率(CLBR)としました。単変量解析および多変量解析を用いて解析しました。
結果:
354名711周期の体外受精を実施した子宮内膜症女性を対象としました。
平均年齢は33.8±3.7歳、平均不妊期間は3.6±2.1年でした。子宮内膜症の表現型の分布は、表在性子宮内膜症3.1%、子宮内膜症性嚢胞8.2%、深在性浸潤性子宮内膜症88.7%でした。表在性は今回の検討では手術組織学的診断のみ採用しています。
疼痛症状の平均VASスコアは、以下の通りです。
 月経困難症:6.6±2.7
 性交疼痛:3.4±3.1
 非周期性慢性骨盤痛:2.4±2.9
 胃腸痛:3.1±3.6
 下部尿路痛:0.9±2.2
患者242名(68.4%)が重度の疼痛症状を有していました。患者あたりの累積生児獲得率は63.8%(226/354)でした。それぞれ疼痛症状に対するVASスコアの平均値も、重度疼痛を示した患者の割合も、生児分娩の有無によっては単変量解析および多変量解析ともに差はありませんでした。
多変量解析の結果、体外受精成績にマイナスの影響したのは女性年齢35歳以上(P<0.001)、卵巣予備能低下AMH<1.2ng/mL(P<0.001)でした。

≪私見≫

子宮内膜症取扱規約においては女性年齢36歳をカットオフで卵巣予備能・男性因子・卵管因子と総合的に判断し手術か早期体外受精かを判断する指標となっていて、今回の結論とほぼ同じような方向性だなと思います。
疼痛があった場合、QOLを上昇するために先に手術か、挙児希望を優先するために体外受精かは微妙な判断ですね。
この研究多変量解析では女性年齢とAMHのみ有意差がつきませんでしたが、単変量解析では女性年齢35歳以上(P < 0.001)、男性因子(P = 0.046)卵管因子(P = 0.004)、AMH<1.2 ng/mL(P<0.001)、AFC<5(P = 0.047)、子宮内膜症性嚢胞手術歴(P = 0.012)、子宮内膜症性嚢胞(P = 0.022)、子宮腺筋症(P = 0.008)が負の関連、アンタゴニスト法(P < 0.001)および媒精(P = 0.026)が正の関連がありました。
疼痛の種類を上記のように分けて管理するのが、あとあとを振り返るうえで有効は手段だと感じました。
深部内膜症と腺筋症の判断は下記論文で行っています。
 深部内膜症の判断
 Chapron C., et al. Hum Reprod 2006;21:1839–1845.
 子宮腺筋症の判断
 Chapron C., et al. Hum Reprod Update 2020;26:392–411.
 Liu L., et al. J Ultrasound Med 2021;40:2289–2306.

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文責:川井清考(院長)

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