男性の癌治療後では、ICSIの利用が多い

≪研究の紹介≫

成人男性および小児がんサバイバーにおける生殖補助医療の利用についてのスウェーデンでの全国調査
Paternity through use of assisted reproduction technology in male adult and childhood cancer survivors: a nationwide register study.
Kitlinski M, et al. Hum Reprod. 2023 May 2;38(5):973-981. PMID: 36773319.

はじめに
様々な種類の悪性腫瘍(癌)やその治療が生殖機能に悪影響を及ぼすことはよく知られています。その結果、男性の場合精子数が減少したり、無精子症になったりする可能性があり、妊娠のためには高度な生殖医療が必要になってくると考えられます。しかしながら、男性のがんサバイバーが体外受精(conventional IVF)や顕微授精(ICSI)を利用したかどうかのデータはあまりありません。この研究は、スウェーデンで実施されたもので、がんの既往がある男性で父親となった方を調査することによって、男性のがんサバイバーが生殖補助医療を利用する必要があるかどうかについて検討したものです。

≪要旨≫

この研究は、Swedish Medical Birth Registerというデータベースを用いた全国規模の研究です。1994年から2014年の間にスウェーデンで第一子をもうけて父親となったすべての男性1,181,488人がデータベースからまず抽出されました。このうち26,901人の父親ががんの診断を受けていました。妊娠から12ヵ月未満でがんと診断された父親、または妊娠後にがんと診断された父親は検討から除外されました(n = 21,529)。残りのがん既往歴のある父親(n = 5,372)は、がん診断時の年齢に基づいて3群(15歳未満、15歳以上24歳未満、24歳以上)に分けられました。サブグループ解析のため、がんの部位によってもグループ分けされました。がんと診断されていない父親(n = 1,154,587)を対照としました。合計で1,159,959人の男性のデータが解析に用いられました。体外受精または顕微授精の利用と癌の既往との関連は、ロジスティック回帰モデルを用いて評価されました。父親の学歴、出産時の父親の年齢、妊娠時の年齢で調整されました。

対照群と比較した結果は以下のようになりました。

  • 小児がんサバイバー(15歳未満)は、体外受精ではなく(aOR 1.02、95%CI 0.61-1.70、P = 0.955)、顕微授精によってのみ父親となる可能性が高いという結果でした(調整オッズ比率aOR 3.52、95%CI 2.52-4.93、P < 0.001)。
  • 10代と若年成人のがんサバイバー(15歳以上24歳未満)は、体外受精ではなく(aOR 1.27、95%CI 0.90-1.80、P = 0.17)、顕微授精によって父親となる可能性が高い結果となっていました(aOR 6.84、95%CI 5.64-8.30、P < 0.001)。
  • 成人がんサバイバー(24歳以上)では顕微授精(aOR 5.52、95%CI 4.86-6.27、P < 0.001)または体外受精(aOR 1.32、95%CI 1.09-1.60、P = 0.004)のいずれかを行って妊娠する可能性が高い結果となっていました。

サブグループ解析では、年齢とがんの部位別に対照群と比較して解析しています。

  • 小児がんサバイバーでは、精巣がん(aOR 5.15、95%CI 1.20-22.0、P = 0.027)、軟部組織および骨悪性腫瘍(aOR 4.70、2.13-10.4、P < 0.001)、血液およびリンパ系がん(aOR 4. 49、95%CI 2.72-7.40、P < 0.001)、または中枢神経系(CNS)および眼のがん(aOR 2.64、95%CI 1.23-5.67、P = 0.012)は、顕微授精によって父親となる可能性が高くなっていました。
  • 10代と若年成人のがんサバイバーでは、精巣がん(aOR 15.4、95%CI 11.5-20.7;P < 0.001)、血液がんおよびリンパ系がん(aOR 9.84、95%CI 6.93-14.0;P < 0.001)、または軟部組織がんおよび骨悪性腫瘍(aOR 6.83、95%CI 3.53-13.2;P < 0.001)で、顕微授精の方が父親となる可能性が高い結果でした。
  • 成人のがんサバイバーで、前立腺がん(aOR 15.7、95%CI 6.70-36.9;P < 0.001)、精巣がん(aOR 9.54、95%CI 7.81-11.7;P < 0.001)、血液がんおよびリンパ系がん(aOR 11.3、95%CI 8.63-14.9;P < 0. 001)、消化器がん、呼吸器がん、泌尿生殖器がん(aOR 2.62、95%CI 1.75-3.92、P < 0.001)、中枢神経系がん、眼がん(aOR 2.74、95%CI 1.48-5.08、P = 0.001)、または皮膚がん(aOR 1.68、95%CI 1.08-2.62、P = 0.022)では、顕微授精の方で父親になる可能性がより高い結果でした。
  • 血液がんおよびリンパ系がんの10代および若年成人のがんサバイバー(aOR 1.98、95%CI 1.10-3.56、P = 0.022)および精巣がんの成人がんサバイバー(aOR 1.88、95%CI 1.37-2.58、P < 0.001)のみで、体外受精治療でも父親になる可能性が有意に高くなっていました。

注意すべき点としては、父親となることができなかった男性に関する情報は入手できなかったため、この研究ではがん既往歴のある男性の不妊リスクを推定することはできないことがあります。

結論:
結論としては以下のようになります。がんサバイバーの父親ではがんの既往のない男性と比較した場合、父親となるために生殖補助医療を利用する頻度が高くなっていました。男性生殖器や血液・リンパ系の悪性腫瘍の既往のある父親でとくに顕著でした。この研究の結果から、男性がんサバイバーで不妊治療の恩恵を受ける症例の背景因子を明らかになり、将来不妊治療を受ける場合の診療方針を決定する際にとても参考になると考えられます。

≪筆者の意見≫

がんサバイバーではがん診断の年齢にかかわらず、ICSIが必要であったという結果でした。スウェーデンではがん生殖医療としての精子凍結が一般的に行われていて、凍結精子を利用した場合はICSIになると考えられるますので、今回の研究の結果に繋がったのだと考えられます。もちろんICSIやIVFの利用に差がないグループもあり、その場合はより自然な形で妊娠していると考えられます。精巣がんでは直接精子形成に影響を与えること、血液系の悪性腫瘍でも疾患診断時にすでに精子形成が低下していたり、治療もきついものであることから生殖機能へのダメージが大きいことから、とくにICSIが必要になると考えられます。
この研究の結果を利用することによって、がん治療後の生殖医療がどのようなものになるかについて、よりよい情報提供ができるようになると思われます。この研究はがんサバイバーで父親になった方と健常人の比較であることと、スウェーデンでのデータなので解釈にやや注意が必要です。

文責:小宮顕(泌尿器科部長)

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