妊娠中に授乳していいの?
「授乳したまま妊娠してもいいですか。」という質問を多くうけます。前回採卵をおこなって凍結余剰胚がある患者さまに限っては授乳中、月経がもどってこなくてもホルモン補充周期であれば、妊娠にトライできるわけですから、いつ再開できるのだろうという疑問は自然なことですよね。今回あらためて文献を探してみました。
Women Birth. 2017 DOI: 10.1016/j.wombi.2017.05.008.
報告 | 症例(授乳あり/なし) | 早産(授乳あり/なし) | 流産(授乳あり/なし) |
---|---|---|---|
Moscone Moore | 57/0 | 1.75%/– | 5.2%/– |
Ishii | 110/774 | 0.9%/2.5% | 7.3%/8.4% |
Madarshahian Hassanabadi | 80/240 | 0%/0% | 6.25%/3.75% |
Şengül | 39/22 | 2.6%/0% | 7.7%/0% |
Albadran | 215/280 | 6.05%/4.29% | 5.12%/10.35% 有意差あり |
Ayrim | 45/120 | 2.22%/1.66% | 報告なし |
Shaaban | 270/270 | 15.6%/19.6% | 2.2%/0.4% |
表:授乳のありなしの母親での早産・流産率の割合
参照論文より改変
まず、授乳中は母体の栄養状態に気をつけたほうがよさそうです。授乳中と授乳なしの母親で比較すると、妊娠中の母親の体重増加は授乳していない母親の方が大きく、妊娠後期のヘモグロビン値(貧血の状態)も授乳していない母親の方が問題ない傾向にあります。
患者さまにとって一番気になる流産と早産ですが、7本の関連論文をみると差がないようです(表:授乳のありなしの母親での早産・流産率の割合参照)。
一つの論文だけ授乳していない母親のほうが流産率が高いと報告していますが、予想した結果と反対なわけですから、交絡因子なのではと思います。授乳の有無によって胎児の出生体重に差がつくかどうかですが、8本の関連論文を参照していますが、授乳中の母親の方が低出生体重児の割合が高いとしたのは1本だけで、それ以外の論文は差がありませんでした。
乳頭刺激は子宮収縮を刺激するオキシトシンの放出を促進しますので、授乳中の母親は早産や自然流産を誘発する可能性があると考えられていましたが、2017年時点でのレビューでは早産や自然流産にほぼ差がなさそうです。不妊治療の患者さまがレビューの対象というわけではありません。
「授乳したまま妊娠してもいいですか。」「授乳したまま不妊治療再開してもいいですか。」に対しては、今後、分娩後の妊娠間隔を意識したうえで、「絶対断乳をしないと妊娠してはいけないわけではありませんが、なるべく母体の栄養状態やホルモンの状態、子宮収縮が誘発される可能性を考えて授乳が終わるくらいのタイミングで不妊治療再開を検討しましょう」とお話しすることを考えています。
文責:川井(院長)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。