異型子宮内膜増殖症寛解後の周産期治療成績(Hum Reprod. 2023)

異型子宮内膜増殖症寛解後の体外受精成績を示した報告はそこまで多くありません。ほとんどの報告は異型子宮内膜増殖症と子宮体癌を一緒に比較検討していることが多いです。(Gallosら、2012;Simpsonら、2014;Guoら、2022)。Guoらは、異型子宮内膜増殖症寛解後女性は子宮体癌寛解後女性に比べて生児獲得率が3倍高いことを報告しています。今回、異型子宮内膜増殖症寛解後にかぎって検討した報告をご紹介します。

≪ポイント≫

異型子宮内膜増殖症寛解後の体外受精治療は生児獲得率には影響しないが、流産・早産リスク上昇することがわかりました。

≪論文紹介≫

Wenxin Song, et al. Hum Reprod. 2023 Oct 25:dead220. doi: 10.1093/humrep/dead220.

2008年5月から2021年7月に中国の生殖医療センターで初回体外受精を行い、新鮮胚移植を行った異型子宮内膜増殖症寛解後女性42名と子宮内膜異常のない女性18,700名を後方視的に検討いたしました。
42名の異型子宮内膜増殖症寛解後女性とコントロール女性を1:4の割合で傾向スコアマッチを行いました。生殖医療成績および周産期合併症を比較検討しました。2値ロジスティック回帰分析を実施し、異型子宮内膜増殖症寛解女性とコントロール18,700名の比較検討も同時に行いました。
結果:
異型子宮内膜増殖症寛解女性はマッチさせたコントロール群と比較して、生児獲得率が数値的には低くなりましたが、有意差認めませんでした(26% vs. 37%、P = 0.192)。しかし、流産率(52% vs. 21%、P = 0.003)と早産(45% vs. 16%、P = 0.041)は増加していました。さらに早期流産(35% vs.18%、P = 0.086)ではなく、後期流産(17% vs. 3%、P = 0.023)が異型子宮内膜増殖症寛解女性で増加しました。交絡因子で調整を行った後の生児獲得の可能性は、コントロール群と統計的に差は認められませんでした(aOR:0.51、95%CI:0.25-1.04、P = 0.064)。しかし、ロジスティック回帰では、異型子宮内膜増殖症寛解女性が流産(aOR:3.62、95%CI:1.55-8.46、P = 0.003)、後期流産(aOR:9.33、95%CI:3.00-29.02、P < 0.001)、早産(aOR:5.70、95%CI:1.45-22.38、P = 0.013)と関連していることがわかりました。

≪私見≫

異型子宮内膜増殖症寛解後女性の体外受精成績はなかなか症例数が多くあつまらないので貴重な報告だと思います。同時に症例があつまらないからこそ、統計的に有意差がついていない可能性もあり、解釈が難しいと判断しています。 寛解後の治療期間は、再発リスクとの兼ね合いにもなってきていますが、Guoらは間隔が短い方が生児獲得率は増加するとしています。ただ、Songらは3ヶ月以内の場合は良好胚獲得率が低下するとも報告しており、治療説明をしっかりおこなってから治療を開始することが大事かなと感じています。

文責:川井清考(院長)

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