BMI25以上では精液所見が有意に悪化!
WHO2010年基準による精液検査所見に基づく系統的レビューとメタアナリシス
Does an increase in adipose tissue 'weight' affect male fertility? A systematic review and meta-analysis based on semen analysis performed using the WHO 2010 criteria.
Santi D, et al. Andrology. 2023 May 25. doi: 10.1111/andr.13460. PMID: 37226894.
肥満は性ホルモンの代謝に悪影響を及ぼし、血清テストステロン値の低下につながります。しかし、肥満が精巣機能全般、特に男性の生殖機能にどのような悪影響を及ぼすかは、これまであまりはっきりしていません。ただ、われわれのブログで肥満やメタボリックシンドローム、男性の併存疾患が男性生殖機能への影響、児や妊娠予後に影響することをご紹介してきました。今回の研究は、肥満と男性の生殖機能の関係を多くの論文をまとめて解析したものです(メタアナリシス)。
≪要旨≫
この研究の目的は、肥満が精子形成に及ぼす影響に関するエビデンスを系統的にレビューすることです。
研究方法は以下のようになっています。メタアナリシスを実施し、18歳以上の男性で肥満1度(過体重)から肥満2度以上(高度肥満)の体重超過を報告したすべての前向きおよび後ろ向きの観察研究を集めました。世界保健機関(WHO)の精液検査マニュアル第5版を用いた研究のみを対象としました。また肥満の被験者と正常体重の被験者を比較した研究に絞って収集し検討されました。
結果:
結果は以下のようになりました。最終的に28の研究でメタアナリシスが行われました。総精子数および精子前進運動率は、正常体重の被験者と比較して肥満1度の被験者で有意に低値でした。患者の年齢も精液所見のパラメータに影響することが示されました。同様に、肥満2度以上の男性では、精子濃度、総精子数、精子前進運動率、総運動率、精子正常形態率が正常体重の被験者より低いことが示されました。肥満2度以上の男性における精子濃度の低下は、メタアナリシスにおいて、年齢、喫煙習慣、精索静脈瘤、総テストステロン血清レベルの影響を受けていました。
結論:
結論として以下のようになります。男性の生殖機能は、標準体重の男性に比べて、体重が増加した被験者で低下していました。体重が増加するほど、精子の数や質が悪化しました。この研究結果は、肥満が男性不妊の非伝染性疾患的な危険因子となること、体重増加が精巣機能全般に悪影響を及ぼすことをしめしました。
用語:
- 肥満1度:BMI 25から29.9 kg/m2(日本肥満学会)
- 肥満2度以上:BMI ≥ 30 kg/m2(日本肥満学会)
- 非感染性疾患(NCDs: Non-Communicable Diseases)とは、世界保健機関(WHO: World Health Organization)の定義で、不健康な食事や運動不足、喫煙、過度の飲酒、大気汚染などにより引き起こされる、がん・糖尿病・循環器疾患・呼吸器疾患・メンタルヘルスをはじめとする慢性疾患をまとめて総称したもの。
≪筆者の意見≫
肥満1度でも精液所見に悪影響を与えるという結果でした。臨床の現場ではBMI30以上であれば保険診療で栄養食事指導ができるので現在も積極的にお勧めしていますが、なかなか指導を受けていただけないのが現状です。この研究をうけて、BMI25以上からより積極的に(きびしく)食生活や体重コントロールについて介入していくことの必要性を認識しました。条件はありますがGLP-1受容体作動薬であるウゴービの薬価収載が待たれます。
一方でBMIが高いからと言って脂肪重量が高いとは限らず、この研究の解析は体組成を考慮していないので解釈にはやや注意が必要と考えられます。
文責:小宮顕(泌尿器科部長)
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