肥満があると低用量アスピリン効果は限弱(Am J Obstet Gynecol. 2019)
アスピリン(アセチルサリチル酸:ASA)は非ステロイド性抗炎症薬で、プロスタグランジンの生合成に必要な2つのシクロオキシゲナーゼアイソザイム(COX-1とCOX-2)を阻害します。COX-1は血管内皮に存在し、プロスタグランジンであるプロスタサイクリンとトロンボキサンA2(TXA2)産生を制御し、血管の恒常性と血小板機能を調節します。プロスタサイクリンは強力な血管拡張作用と血小板凝集抑制作用があり、一方TXA2は強力な血管収縮作用と血小板凝集促進作用があります。COX依存性プロスタグランジン合成に対するアスピリンの効果は用量依存的です。低用量(1日60~150mg)アスピリンはCOX-1を不可逆的にアセチル化し、プロスタサイクリンの産生に影響を与えることなくTXA2の血小板凝集促進作用を低下させます。
低用量アスピリン内服を実施している妊娠高血圧腎症ハイリスク女性において,トロンボキサン阻害に対する肥満との関連を調査した報告をご紹介いたします。
≪ポイント≫
肥満があると、低用量アスピリンの血小板凝集促進低下を減弱する作用が失われる可能性があります。投与量増加、投与頻度の増加などを検討する必要が示唆されています。
≪論文紹介≫
Matthew M Finneran, et al. Am J Obstet Gynecol. 2019 Apr;220(4):385.e1-385.e6. doi: 10.1016/j.ajog.2019.01.222.
低用量アスピリン内服を実施している妊娠高血圧腎症ハイリスク女性において,トロンボキサン阻害に対する肥満との関連を検討したランダム化比較試験です。
母体血清TXB2(TXA2の間接的指標)値を、無作為化時期(妊娠13~26週)、妊娠第2期(無作為化から少なくとも2週間以降である妊娠24~28週)、妊娠第3期(妊娠34~38週)の3点で採取しました。多変量ロジスティック回帰分析を行い、母体年齢、人種、無作為化時の高リスク群、出産の有無、妊娠16週未満の無作為化開始割合を調整した上で、肥満度カテゴリー別にTXB2阻害オッズ比を算出しました。
結果 :1,002名が解析に組み入れられ、低用量アスピリン群は496名(49.5%)、プラセボ群は506名(50.5%)でした。低用量アスピリン投与群では、すべての肥満度カテゴリーにおいてTXB2値の大幅な低下が認められました。対照的に、プラセボ群では無作為化後にTXB2値の著明な低下はみられず、肥満女性では第2期(16.5、IQR 8.0-31.8 vs. 14.0、IQR 6.9-26.7、ng/mL;P = 0.032)および第3期(15.7、IQR 7.6-28.5 vs. 11.9、IQR 4.6-25.9、ng/mL;P = 0.043)ともにTXB2中央値が高くなりました。肥満度を層別化した低用量アスピリン群間で比較すると、クラスIII肥満女性は、第2期(aOR、0.33;95%CI、0.15-0.72)および第3期(aOR、0.30;95%CI、0.11-0.78)ならびに両時点(aOR、0.09;95%CI、0.02-0.41)において、TXB2値が検出されない確率が最も低くなりました。
≪私見≫
こちらの研究はあくまで、妊娠高血圧腎症リスク軽減につながっていると考えられるアスピリンのTXAへの反応を見たに過ぎないため、臨床的結果と直接関連するものではないことは注意しないといけないと感じています。
文責:川井清考(院長)
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