インフルエンザワクチン接種は流産とは関係しない(Obstet Gynecol. 2023)

日本産科婦人科学会、米国産科婦人科学会、WHOともに妊娠の可能性がある全ての人がインフルエンザワクチンを接種することを推奨しています。
インフルエンザワクチン接種と分娩時の周産期転機を調査した報告が数多くありますが、流産との関係を示したものはそこまで多くありません。インフルエンザワクチン接種の有無により流産率に差がない、低下するという報告が大半であるものの、2017年Vaccine Safety Datalink研究では流産率の上昇が懸念される報告がありました。Vaccine Safety Datalink研究の強度と妥当性は、データがまばらであったため結果を疑問視する声が多く、追加研究が望まれていました。
インフルエンザワクチン接種と流産率を調査した妊娠前コホート研究をご紹介いたします。

≪ポイント≫

妊娠前または妊娠中のインフルエンザワクチン接種は流産と関連しませんでした。

≪論文紹介≫

Annette K Regan, et al. Obstet Gynecol. 2023 Sep 1;142(3):625-635. doi: 10.1097/AOG.0000000000005279.

Pregnancy Study Online (PRESTO)という米国またはカナダ在住の21~45歳の女性、男性21歳以上を対象としたウェブベースの妊娠前コホート研究を用いて、インフルエンザワクチン接種と流産率を調査しました。
登録時にベースライン質問票を記入し、妊娠前、妊娠初期および後期、産褥期に8週間ごとに追跡調査票を記入しました。ワクチン情報はすべてのアンケートで自己申告制としています。流産は追跡調査中の自己申告情報から特定しました。流産の定義は、妊娠20週までの生化学妊娠を含む妊娠喪失としています。
男性パートナーにはベースライン調査票のみ記入してもらっています。Cox比例ハザードモデルを用いて、妊娠判明3ヵ月前から妊娠19週目までのワクチン接種と流産との関連についてのハザード比(HR)および95%CIを推定しました。細かい層別化を用いて季節要因および女性パートナー要因による交絡因子と調整しています。
結果:
6,946名の妊婦のうち、妊娠前または妊娠中にインフルエンザワクチン接種を行った割合は23.3%:妊娠中(妊娠4~19週)3.2%、妊娠判明前3ヵ月間20.1% でした。
流産率はワクチン未接種群16.2%、ワクチン接種群17.0%でした。ワクチン未接種群と比較して、インフルエンザワクチン接種は、妊娠前でも(HR 0.99、95%CI 0.81~1.20)、妊娠中でも(HR 0.83、95%CI 0.47~1.47)流産率の増加とは関連しませんでした。
男性パートナーのワクチン接種データが得られた1,135組のうち、10.8%が妊娠前3ヵ月前に接種を実施していました。男性パートナーのワクチン接種と流産の関連性のHRは1.17(95%CI 0.73-1.90)でした。

≪私見≫

亀田総合病院附属幕張クリニック 菅長 麗依(すがなが れい)先生にとてもわかりやすく書いていただいたインフルエンザワクチンに関する記事も参考になさってみてください。

インフルエンザワクチンについて

文責:川井清考(院長)

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