ご来院の方へ 赤ちゃんを守るワクチン

これから妊娠を考えている方とそのご家族へ
〜安心して赤ちゃんを迎えるために〜

妊娠を考えている方・不妊治療中の方のワクチン接種
【妊娠する前に知っておこう VPD】

VPD(ヴイピーディー)という言葉をご存知ですか?
Vaccine Preventable Diseaseの略語で、あらかじめワクチンを接種することで予防できる病気のことです。

妊娠希望の場合に、VPDが大事な3つ理由

  1. 妊娠中はあらゆる感染症により、母体の感染症の重症化や流早産のリスクがあり、また、風疹・水痘などは胎児に影響(胎児異常など)することがあるため。
  2. VPDはあらかじめワクチンを接種することで予防できるため。
    (接種せずにVPDにかかり、胎児に何かあった時には悔やみきれない)
  3. 特に妊娠中に予防しておきたいVPDの生ワクチンは、妊娠中には接種ができないため、 妊娠前に計画的に接種する必要があるため。

当院では過去の接種記録や抗体価測定(採血)などから、皆様のVPDに対する免疫力が十分かどうか検討し、接種しておくべき(または接種が望ましい)ワクチンを推奨し、接種いたします。ご相談をご希望の方は、スタッフまで随時お声がけください。

具体的にどのように相談にのってもらえるのですか?

A患者さまが現時点でVPD(麻疹/風疹/水痘/ムンプス)に対する免疫をどれくらいもっているか、過去の予防接種歴(あれば母子手帳など)や抗体検査(採血)などの情報から判断します(表2)。
詳しいご相談をご希望の場合は、亀田IVFクリニック幕張より亀田総合病院付属 幕張クリニック(2階)のワクチン内科外来(菅長医師:火曜10-12時)に紹介させていただきます。
幕張クリニックでは千葉市など各地自体の助成利用(風疹抗体検査や麻疹・風疹ワクチン接種の助成)や患者さまのご家族についても対応可能です。
亀田IVFクリニック幕張および幕張クリニック外来で連携し、各患者さまの治療計画や諸事情を加味して、ワクチン接種の必要性や回数を検討していきます。相談をご希望の場合は、IVF担当医またはスタッフまでお声がけください。

抗体価(採血)で全てがわかりますか?

A抗体価とは「その感染症に対する免疫を(どの程度)もっているか」を表す値のことです。しかし、本来、感染症に対する免疫の有無は採血だけでは正しく判断できないため、あくまで“参考値”となります(自費検査:表3)。
免疫の有無については、抗体価のほかに『過去の予防接種歴』が重要です。
患者さまの母子手帳など、過去の予防接種記録があれば、ご持参いただき、罹患歴なども参考にしながら、必要に応じて抗体価の検査を検討します。

妊婦にとって大事なVPD 〜風疹編〜

日本は世界的な風疹流行国

2012-2013年、日本で風疹が大流行し、約17,000人の風疹感染者と45人の先天性風しん症候群(CRS)が発生しました。2018-2019年にも流行し、5000人以上の風疹感染者が発生し、2020年5月時点で日本は世界3位の風疹流行国です。
CRSとは、風疹に対する免疫を十分にもっていない妊婦さんが、妊娠中に風疹に感染することで、お腹の中の赤ちゃん(胎児)にも風疹を感染させてしまい、胎児が障害(難聴や白内障、先天性心疾患など)をもって生まれてしまう病気の総称です。さきのCRS45人全員が障害を抱えて生まれ、残念なかがら、その約1/4のお子さんは⼼疾患などが原因で生後間もなく亡くなってしまいました。
この、CRSもVPDのひとつ、つまりワクチンで予防ができます。

妊婦と風疹

妊娠が成立すれば、妊婦健診の初期採血で風疹抗体検査が行われます。そこで風疹抗体が不足(免疫が不十分)していると判明した妊婦さんは、どうするでしょう。
生ワクチンである風疹ワクチンは妊娠中には接種ができません。そのため、免疫が不足している妊婦さんは、妊娠中に風疹にかからないよう、出産まで気をつけて過ごさなければいけません。この場合は、パートナーや同居家族が風疹に対する免疫をつけて、妊婦と胎児を守るということが大変重要です(これを、弱い人をまゆで守るという概念から、”まゆの実戦略”cocooning:コクーニングといいます)。胎児を守るのは、妊婦だけでなく家族全員です。

風疹の免疫は、みな持っている?

風疹は、麻疹、水ぼうそう(水痘)、おたふくかぜ(ムンプス)と同様に、生涯(1歳以上)で2回接種していることが大事です。2回接種していれば基本的には免疫があると考えてよいです。

年代別でみると、20歳未満と20歳以上にわかれます(風疹・麻疹について)

20歳未満

1歳と年長児(5-6歳)に、計2回のMR(麻疹・風疹混合)ワクチンが定期接種とされている世代です。お母さんがうっかり受診を忘れていたり、特別な事情がない限り、2回接種しているはずの世代です。

20歳以上

男女ともにこどもの時のワクチン接種回数が1回または0回という人がいるため免疫が不足している可能性があります。特に30-50代の男性は、幼少期の予防接種制度の影響で、風疹の免疫が不十分な人が特に多いことがわかっています。1962-1979年生まれの男性には、国が定めた風疹対策として無料の抗体検査・ワクチン接種ができる制度が2019年から開始されています(風疹第5期定期接種)。期間限定の事業なので、ぜひ利用することをお勧めします。自宅に案内が届いていない方は自治体の保健所に問い合わせてみてください。その他、千葉市の助成を利用し無料で抗体検査・ワクチン接種も可能です。

妊婦にとって大事なVPD 〜風疹以外の生ワクチン〜

CRS(風しん)以外にも、ワクチン接種により、あらかじめ予防できるVPDが、他にも複数あります(表1)。
しかし、生ワクチンは妊娠中には接種ができません。
また、生ワクチン接種後は原則2ヶ月の避妊期間が望ましいとされています。そのため、妊娠前にワクチン接種を計画的に済ませておくことが重要です。

水痘(水ぼうそう)

水痘は、子供より成人が感染する方が重症化しやすく、妊婦の重症化リスクが高いことがわかっています。幼少期に感染したことがあれば、基本的には免疫はついており、再感染することはありません(例外あり)が、感染したこともなく、かつ、水痘ワクチンの接種歴がない人は、いつでも感染する可能性があります。
2回のワクチン接種で約99%以上の感染予防効果や重症化予防効果が期待できます。20-40代の女性の約1割は免疫をもっていないというデータもあり、赤ちゃんを守るためにも、母子手帳でワクチン接種歴や罹患歴を確認してみてください。

妊婦にとって大事なVPD 〜不活化ワクチン〜

不活化ワクチンは妊婦・授乳中にも安全に接種ができるワクチンです。

生ワクチンは妊婦や、1歳までの乳児は原則接種できませんが、不活化ワクチンは生まれたての赤ちゃんでも接種できる安全なワクチンだからです。
妊婦にとって特に大事な不活化ワクチンには、インフルエンザと百日咳があります。

インフルエンザ 〜母体感染による流早産を防ぐために〜

インフルエンザは毎年12-2月頃に流行します。流行時期はその年によって多少のずれがあるので、11月中には接種しておくことが大事です。
インフルエンザは毎年多くの人が感染することから、妊婦さんもいつ誰から感染するかわかりません。インフルエンザに感染することで、胎児に障害をきたすなどの影響はありませんが、妊婦が重症化すると流早産の危険性などもあるため、流行時期に入る前(10-11月中)にワクチンを接種して免疫をつけておくことが大事です
ワクチンを接種していても、インフルエンザに感染することはありますが、感染しても重症化を防ぐ、合併症(肺炎、脳炎など)を防ぐ効果が期待できるため、接種する意義は非常に高いです。

百日咳 〜重症化するリスクが高いのは、これから生れてくる乳児〜

百日咳は、その名の通り、百日くらい長く咳が続く、百日咳菌による感染症で飛沫感染します。大人が感染しても咳が長引くだけで大事には至りませんが、子供、特に乳児が百日咳に感染すると、ひどい咳で呼吸停止してしまうなど、命に関わることがあります。中でも生後6ヶ月未満の乳児は免疫に対する力が弱く、この時期にお父さんお母さんや兄弟から百日咳をもらうと、高い確率で入院が必要な状態となってしまいます

米国では乳児にもっとも身近に接する妊婦への百日咳含有ワクチン(米国の成人用三種混合ワクチンTdap®)を妊娠後期に接種することが推奨されています。不活化ワクチンのため妊娠中の接種が安全で、かつそれほど百日咳に対する免疫が重要視されているからです。また、妊娠中に接種すると胎盤を通じて百日咳に対する抗体が赤ちゃんに届けられ、お母さんも赤ちゃんも免疫がある状態を作ることが期待できます。

毎年百日咳に感染して入院(ときに死亡)する乳児が報告されていますが、その感染経路の50%以上は同居家族(両親や兄姉など)であることがわかっています。妊娠中に接種することは日本の添付文書上は積極的には勧められていませんが、妊娠前に接種することで、お母さん・その他ご家族が免疫をつけておく方法でも十分効果があります。

新型コロナウイルス 〜母体感染による流早産を防ぐために〜

妊婦や妊娠を希望する人に、新型コロナワクチン接種をお勧めする理由は下記2点です。

  1. 妊婦が新型コロナウイルスにかかると、非妊婦に比べ、重症化しやすく、早産の危険が高まります(特に妊娠中〜後期)。
    →中でも、35歳以上、肥満(BMI30以上)、喫煙者、高血圧・糖尿病・喘息などの基礎疾患がある場合は、特に重症化リスクが高いことがわかっています。
  2. 新型コロナワクチンは高い有効性と安全性が示されており、妊婦と非妊婦で副反応の出かたに差はありません。

妊娠中(特に妊娠後期)に新型コロナワクチンを接種することで、新生児に抗体が移行します。そのため、ワクチン接種した母親から生まれた乳児が、新型コロナウイルスに感染した場合、その入院率が下がることが報告されています。つまり、お母さん(妊婦)のワクチン接種が、赤ちゃん(出生児)を守ることに繋がるのです。
接種する時期は、妊娠初期から後期、いつでも問題ありません(他のワクチンとは前後2週間空ける必要があります)。また、妊娠前(不妊治療中)や授乳中の接種も、胎児や妊娠経過、母乳や生殖器への悪影響は報告されていないため、時期を問わず接種が可能です。パートナーと一緒に、新型コロナワクチン接種をお勧めします。
より詳しい情報については、日本産婦人科学会や国立成育医療センターのサイトを参照ください。

妊婦だけじゃない、家族も一緒にVPDを予防しましょう

水痘(水ぼうそう)や百日咳は特に家族内感染をしやすい感染症です。お子さんが水痘になると高い確率で同居家族に感染させてしまいます。
麻疹、風疹、水痘など、ワクチンで予防できる感染症(VPD)は、女性だけでなく、そのパートナーや同居家族も一緒にワクチンで予防しましょう。

亀田総合病院付属 幕張クリニック
菅長 麗依(すがなが れい)
日本総合内科専門医
日本家庭医療専門医・指導医
Certificate in Travel HealthTM (ISTM) 国際渡航医学認定医

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