ご来院の方へ 成績 体外受精(2023年1月~12月)
卵巣刺激~採卵~培養
AMHと回収卵子数の関係
体外受精にステップアップされた際には、卵巣予備能の指標である抗ミュラー管ホルモン(AMH)値や胞状卵胞数(AFC)が重要な指標になります。AMHやAFCをベースに女性年齢などの患者背景と総合して卵巣刺激法を判断します。
下記にAMH値による当院の卵巣刺激法の採卵による平均回収卵子数を示します。
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卵巣刺激法
当院では、AMH値、AFC、患者年齢、精液所見などを指標に卵巣刺激法を決定します。
AMHやAFCの値から、患者層は卵巣刺激への低反応患者(Poor Responder)、標準反応患者(Normal Responder)、高反応患者(High Responder)の3群に分けられます。
- Poor Responder : AMH < 1.2 ng/mL または AFC < 5個
- Normal Responder : AMH = 1.2~4.3 ng/mL または AFC = 5~20個
- High Responder : AMH > 4.3 ng/mL または AFC > 20個
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平均回収卵子数~平均有効胚数
当院の個別化調節卵巣刺激法により、卵巣予備能別に1回の採卵で得られる平均回収卵子数、成熟卵子数、正常受精数、有効胚数を示します。胚移植可能な胚盤胞に成長する受精卵は回収卵子数の3分の1程度(40歳以上では4分の1程度)です。
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平均採卵数~平均有効胚数
当院の個別化調節卵巣刺激法により、女性患者年齢別に1回の採卵で得られる平均回収卵子数、成熟卵子数、正常受精数、有効胚数を示します。
胚移植可能な胚に成長する受精卵は34歳以下で4.0個、35~39歳で2.7個、40~42歳で1.1個、43~45歳で0.6個です。女性年齢があがると卵巣予備能が低下し平均回収卵数~平均有効胚数の数は減少します。しかし各年齢による卵巣予備能のバラツキも大きく成績を左右します。
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受精方法
当院の受精方法の割合を下記に示します。体外受精(IVF)と顕微授精(ICSI)はほぼ半々の割合で行われています。複数個取れた成熟卵子をIVF用とICSI用に振り分けて受精を行うことをスプリット(Split)と言います。当院では、体外受精(IVF)を標準的な受精方法として適用しておりますが、総運動精子数が著しく少ない場合、原因不明の受精障害や胚発生不良が予想される場合などは顕微授精(ICSI)の対象となります。
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培養成績
顕微授精(ICSI)は精子を直接卵子に注入するため正常受精率は体外受精(IVF)よりも15-20%ほど高い傾向があります。その後の胚発生に関してはほぼ同等です。
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妊娠率について
妊娠率(胚移植あたり)
臨床妊娠とは、超音波検査で胎嚢(赤ちゃんが入っているふくろ)が確認できた状態であり、尿中や血中でのhCG陽性による生化学妊娠(化学流産)とは異なります。生化学妊娠陽性率の方が臨床妊娠率より5~15%ほど高くなるため、臨床妊娠率と生化学妊娠陽性率を区別して理解することは重要です。国内では、臨床妊娠率を“妊娠率”として定義することが一般的であり、下記は当院の臨床妊娠の実績になります。
臨床妊娠率は、臨床妊娠率=臨床妊娠数/胚移植数×100% として計算されます。
流産率(臨床妊娠あたり)
流産率は、臨床妊娠後に22週未満で流産に至ってしまった割合を言います。
流産率は、流産率=流産数/臨床妊娠数×100% として計算されます。
臨床妊娠数から流産数を除いた数は妊娠継続数となり、ほぼ全数分娩に至ります。
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妊娠ステージ別の妊娠率
妊娠率(胚移植あたり)で生化学妊娠率と臨床妊娠率の違いを述べましたが、生化学妊娠の情報も非常に重要な情報です。胚が着床した形跡が全く見られないのか、もしくは少なからず着床したシグナルを得られたのか、その結果も今後の治療方針の判断基準になります。
- 生化学妊娠 : hCG値が5 mIU/mL以上
- 臨床妊娠 : 妊娠5週~6週に超音波検査で胎嚢を確認
- 妊娠継続 : 心拍の確認および流産せず継続
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胚移植方法別・移植胚別の妊娠率
妊娠率(単一凍結胚盤胞移植移植あたり)
妊娠率が安定して高く、安全性も高い胚移植方法として単一凍結胚盤胞移植が当院の標準プロトコルになっています。
単一凍結胚盤胞移植の臨床妊娠率を下記に示します。
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胚盤胞グレード別の妊娠率と流産率
胚盤胞とは、胎児になる部分(内部細胞塊=ICM)と胎盤になる部分(栄養外胚葉=TE)が明確に分かれた状態の胚です。このICMとTEは、細胞数の多さなどにより個々にA、B、Cの3段階に評価されます。(この胚盤胞評価方法をガードナー分類と言います。)ICMグレードとTEグレードの組み合わせをAランク、Bランク、Cランク、Dランクの4段階評価に変換し、比較した妊娠率を下記に示します。
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胚盤胞培養日数別の妊娠率
胚盤胞のグレードも妊娠率と流産率に影響しますが、胚盤胞に達する成長スピードも妊娠率と流産率に影響します。通常、胚は5~6日間かけて胚盤胞に成長しますが、培養5日目(Day 5)と培養6日目(Day 6)の妊娠率と流産率を下記に示します。
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初期胚・胚盤胞の妊娠率
移植する胚において、培養日数2日目または3日目の初期胚(分割期胚)を移植する方法と胚盤胞を移植する方法があります。下記に初期胚移植と胚盤胞移植の妊娠率と流産率を示します。いずれも単一凍結胚移植になります。
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累積の妊娠継続率
移植回数別の累積妊娠継続率
「体外受精の移植回数」で示したとおり、挙児希望の強い意志がありながら医学的要因で結果が出なかった患者だけでなく、社会的要因や経済的要因で中断、時間的要因で未受診の患者も含まれますが、年齢区分別の体外受精累積妊娠継続率を示します。
累積妊娠卒業率は1回目の移植数を分母に累積妊娠継続数を割った数値になります。
実線はドロップアウトしたカップルを妊娠していないと定義する現実的な成績、点線はドロップアウトしたカップルを治療継続群と同じ割合で妊娠したと仮定した場合の楽観的成績としています。
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採卵回数別の累積妊娠卒業率
前記のとおり、挙児希望の強い意志がありながら医学的要因で結果が出なかった患者だけでなく、社会的要因や経済的要因で中断、時間的要因で未受診の患者も含まれますが、年齢区分別の体外受精累積妊娠卒業数を下記に示します。
累積妊娠卒業率のグラフは1回目の採卵数を分母に累積妊娠卒業数を割った数値になります。
実線はドロップアウトしたカップルを妊娠していないと定義する現実的な成績、点線はドロップアウトしたカップルを治療継続群と同じ割合で妊娠したと仮定した場合の楽観的成績としています。
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総括
不妊治療は保険診療下での治療が開始後、2年目が経過しました。
昨年までは自費診療時代と比較し、成績がどのように変わったか、という議論がされていましたが、2023年度は保険診療下での最適化・自費診療への移行をどのような患者さまに進めるかという議論に変わってきています。また不妊治療を開始する女性年齢の変化は、当院に通院するカップル層でも変化しています。成績が1ポイントでもよくなるよう、日々アップデートしていきたいと思います。
排卵誘発法
fixed GnRHアンタゴニスト法の割合を増えました。発育卵胞数の調整がしやすく、育った数により新鮮胚移植にも柔軟に変更可能です。初めから全胚凍結希望の患者様には2024年度はPPOS法を増やしていくことを検討しています。
採卵結果
回収卵子数から有効胚数には大きな変化は認めませんでした。この傾向は卵巣反応別でも年齢別でも同様の傾向でした。
受精割合
顕微授精(ICSI)を行った割合が増えました。昨年と大きく変わったのは保険診療下の胚移植回数が終了したか、残り僅かとなった転院患者さまが増えたことです。その結果、初回から顕微授精を選択された割合が増加しました。培養成績ですが媒精成績が低下しました。
当院の媒精はover nightで行っていますので一部未熟から成熟に途中で移行した卵子もいるはずですが、昨年より成績が低下したことに関しては精液調整も含めた改善を現在検討しています。
良好胚盤胞率の低下が認められました。当院で使用していた培養液に不純物の沈澱が認めたため使用を一時中断したことが主たる原因と考えています。製造業者とやりとりを重ね、改善に至ったため、培養液を戻し、成績は以前の成績に回復しています。
胚移植成績
前年と比べて、1-2ポイントの成績上昇につながっています。
移植手技の改善や着床不全症例への保険診療下でのアルゴリズムが徐々にフィットしてきた印象を受けています。
全国平均と比較しても同等以上の成績を維持しています。