教育・収入は妊娠しやすさと関係する?(デンマーク 2023)

個々の社会経済的状況は、社会的・環境的条件に影響を与え、心血管疾患、脳卒中、がん、寿命、特に精神疾患のリスク因子になることはよく知られています。そして、不妊に関係している可能性があります。北アメリカから報告された8,654組のカップルを対象としたプレコンセプションコホート研究では、教育水準が低いほど、世帯年収が低いほど、妊よう性が低下することがわかっています。(Nina L Schrager, et al.  Ann Epidemiol. 2020 Oct;50:41-47.e1.  doi: 10.1016/j.annepidem.2020.07.004.  )
デンマークの妊娠を希望する夫婦のコホートにおいて、学歴や世帯収入で測定される社会経済的状況が妊娠しやすさと関連しているか?と調査した報告をご紹介いたします。

≪ポイント≫

北アメリカの調査と同様に教育水準が低いほど、世帯年収が低いほど、妊よう性が低下することがわかりました。

≪論文紹介≫

Marie Dahl Jørgensen, et al. Hum Reprod. 2023 Apr 24;dead077.  doi: 10.1093/humrep/dead077.

2007年から2021年に妊娠を試みた18~49歳のデンマーク人女性のコホート研究です。データは初回と隔月のフォローアップアンケートにより、12ヶ月間または妊娠が報告されるまで収集しました。10,475人の参加者から最大12周期(38,629月経周期、6,554回妊娠)のデータを収集し、出産可能性割合(FR)および95%信頼区間を推定しました。
結果:
後期高等教育修了と比較して、中等教育修了(FR:0.73、95%CI:0.62-0.85)、後期中等教育修了(0.89, 95% CI: 0.79-1.00), 職業教育修了 (FR: 0.81, 95% CI: 0.75-0.89), 初期教育修了 (FR: 0.87, 95% CI: 0.80-0.95) では妊娠しやすさは低下し、中期高等教育修了では差がありませんでした (FR: 0.98, 95% CI: 0.93-1.03) 。世帯月収>65,000DKKと比較して、世帯月収<25,000DKK(FR: 0.78, 95% CI: 0.72-0.85),25,000-39,000DKK(FR: 0.88, 95% CI: 0.82-0.94), 40,000-65,000DKK(FR: 0.94, 95% CI: 0.88-0.99) では妊娠しやすさは低下しました。交絡因子で調整しても、これらの差はかわりませんでした。(DKK:デンマーク・クローネ 2023年5月現在 約20円)
社会経済的状況の指標として、学歴と収入を用いましたが、それ以外の側面も持ち合わせているため、他の因子についての解析が不十分である可能性があります。

社会経済性と妊よう性の関係(n=10 475)

 

教育レベル

低い 中程度 高い
低収入 0.83(0.73-0.95) 0.76(0.68-0.86) 0.86(0.83-0.96)
中収入 0.86(0.69-1.08) 0.88(0.80-0.96) 0.94(0.88-1.00)
高収入 0.95(0.64-1.43 0.87(0.74-1.03) reference

年齢・17歳時の喫煙歴・BMI、ストレス度、うつ状態度で調整

≪私見≫

デンマークは福祉国家であり、医療費はほぼ無料です。今回の調査も妊娠方法は問わず、ですので、生殖補助医療まで含んでの結果となります。体外受精はデンマークでは年齢制限などはありますが、一定範囲内では無料で受けられます。それでも差が残るということは、何らかの後天的な要素があるのでしょうか。やはり、国としての子供の教育問題は大きな課題かと感じています。

文責:川井清考(院長)

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