男性のプレコンセプションケア⑤~父親がメタボだと、息子の男性生殖器に先天異常(停留精巣や尿道下裂)が発生しやすくなる?(論文紹介)

≪今回ご紹介する論文≫

男性生殖器の先天奇形と父親の健康状態: 米国保険請求データの分析
Congenital male genital malformations and paternal health: An analysis of the US claims data.
Yu B, Zhang CA, Chen T, Mulloy E, Shaw GM, Eisenberg ML. Andrology. 2023 Feb 2. doi: 10.1111/andr.13404. Epub ahead of print. PMID: 36727635.

父親の健康状態と出生男児の生殖器の奇形との関連に関する研究はほとんどありません。しかしながら、父親の健康状態が精液所見や妊娠予後に影響し、さらには先天奇形につながる可能性があります。一方で、尿道下裂の男児の父親の精液所見は悪い傾向があることも示されています。尿道下裂や停留精巣は家族内に集積するとも言われており、これは遺伝の場合もありますし、遺伝以外の要素(エピジェネティクス)、外的要因の暴露も考えられています。
この研究グループは、米国の保険請求データベースを用いて男性パートナーの健康状態と母子の健康の関連性についていくつもの結果を出していて、このブログでも度々紹介しています。
今回は、父親の妊娠前(プレコンセプション期)の健康状態と、出生児の男性生殖器の先天奇形(尿道下裂や停留精巣)の関連性を検討した研究です。子供が健康に生まれてくるか親はとても心配するものです。この心配を少しでも減らすような対策ができる可能性を示唆する論文だと思います。

≪研究の要旨≫

この研究の目的は、父親の健康状態と出生児の男性生殖器の先天奇形との潜在的な関連性を調査することです。
対象と研究方法は次の様になっています。米国で支払われた民間の医療費請求について報告するIBM MarketScan Researchデータベースから得られた2007年から2016年のデータを分析した。父親の併存疾患(メタボリックシンドローム[MetS]、一般的な慢性疾患、チャールソン併存疾患指数[CCI]など)と、出生男児における生殖器の先天奇形との関連を分析しました。
結果は以下の通りでした。376,362名の出生男児のうち、22%の父親が妊娠前に少なくとも1つのメタボリックシンドロームの要素(≧1)を有していました。2880例の停留精巣(0.77%)、2651例の尿道下裂(0.70%)が出生時に確認されました。メタボリックシンドロームの要素を持たない父親からの出生男児の0.76%が停留精巣と診断されたのに対し、メタボリックシンドロームの要素を複数持つ父親からの出生男児は0.82%が停留精巣でした。同様に、父親がメタボリックシンドロームの構成要素が0または2つ以上の場合、それぞれ0.69%および0.88%の出生男児に尿道下裂がみられました。母親と父親の要因で調整した結果、父親がメタボリックシンドロームの構成要素を2つ以上持つと、出生男児が尿道下裂と診断される確率は上昇しました(オッズ比[95%信頼区間]: 1.27[1.10-1.47])。出生男児の生殖器の先天奇形との関連性のある父親のメタボリックシンドロームの特定の構成要素は認めませんでした。生殖器の奇形に対して外科的手術を行なったものと定義してサブグループ解析を行った場合でも、尿道下裂との関連は引き続き認められました。
結論として、妊娠前の時期にメタボリックシンドロームの複数の要素を持つ父親は、出生男児に尿道下裂を認めるリスクが高いことがわかりました。この結果は、男性の生殖医学的な健康と、全身の健康との関連性を支持するものです。

≪筆者の意見≫

この研究は、父親の健康状態が、生児の男性生殖器の先天奇形を引き起こす可能性を示した論文としては初めてのものとなっています。妊娠中の環境が、testicular dysgenesis syndrome(TDS、精巣形成不全症候群;尿道下裂や停留精巣・精子数減少・妊孕性低下・精巣癌)の発症に関与すると言うことは従来から言われていましたが、本研究は男性のプレコンセプションの時期の健康状態がTDSを起こす可能性を示唆しています。
男性因子がどのような機序で児の生殖器の先天異常を引き起こすかは不明です。しかしながら、そのリスクとなっているメタボリックシンドロームや併存疾患を避けた方が良いことはお分かりになると思います。子供が欲しいと思っている男性は、自分の健康をまず見直すことが必要といえる理由がまた一つ増えたことになります。

文責:小宮顕(泌尿器科部長)

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