胚移植時の子宮内膜厚は妊娠高血圧リスクと関連(レトロスペクティブコホート2022)

最近の2つのメタアナリシスから、凍結融解胚移植は妊娠高血圧症候群、LGA、産後出血などと関連することが示されています。
Maheshwari A, et al. Hum Reprod Update. 2018;24:35–58.
Sha T, et al. Fertil Steril. 2018;109:330–342.e339
これらのリスクはエストロゲンレベル、黄体の欠如、子宮内膜の薄さなどと関連しているのではないかとされていますが、凍結融解胚移植に限って子宮内膜厚と妊娠高血圧症候群の関係をしめした報告は認めませんでした。こちらを調査したコホート研究をご紹介いたします。

≪ポイント≫

凍結融解胚移植時の子宮内膜厚(8mm未満、12mm以上)は妊娠高血圧症候群のリスク因子になりそうです。排卵周期では薄い群、厚い群、ホルモン補充周期では薄い群の関連が強そうです。

≪論文紹介≫

Meng Zhang, et al.  Reprod Biol Endocrinol. 2022 Jun 28;20(1):93.  doi: 10.1186/s12958-022-00965-8.

2015年1月から2019年12月に凍結融解胚移植を受け単胎分娩に至った13,458人を対象とし子宮内膜厚と妊娠高血圧症候群リスクの関連を調査したレトロスペクティブコホート研究です。ロジスティック回帰分析、ROC 曲線、制限付きcubic splineなどの統計手法を用い、子宮内膜厚と妊娠高血圧症候群の発症率との関係を評価しました。
対象患者は(1)20歳-40歳、(2)妊娠28週以降に単胎児を出産、(3)胚移植前の高血圧なし、(4)PGT実施患者、ドナー卵・精子患者は除外、となっています。
結果:
子宮内膜厚が薄いグループ(8mm未満)および厚いグループ(12mm以上)における妊娠高血圧症候群発生率は、基準グループ(8-12mm)よりも有意に大きかった(それぞれ、7.98%、5.24% vs. 4.59%, P < 0.001).子宮内膜厚と妊娠高血圧症候群リスクを制限付きcubic splineで検討したところ、非線形の関係を示しました(P < 0.001)。
ステップワイズ・ロジスティック回帰分析により交絡変数を調整した結果、子宮内膜厚が薄いグループと厚いグループは、妊娠高血圧症候群発生率増加と関連していました。サブグループ解析では、ホルモン補充周期群では子宮内膜厚が薄いことが妊娠高血圧症候群発生率増加と関連し、排卵周期群では子宮内膜が厚いことが妊娠高血圧症候群発生率増加と関連しました。

≪私見≫

凍結融解胚移植での妊娠高血圧症候群となる機序は未だわかっていませんが、黄体の有無が強く影響を与えているのではいかと考えられています。黄体はエストロゲン・プロゲステロンだけでなく、リラキシン、VEGF、2-MEなどの血管作動性物質を産生しており、これらの欠乏が妊娠高血圧症候群のリスク因子と考えられています。
また、薄い子宮内膜厚は、子宮内掻爬や感染症に起因し、微小循環や局所免疫の変化、炎症を誘発し、sFlt-1、PlGF、NK細胞などの因子が変化している可能性も考えられます。最近では低用量アスピリン療法が妊娠高血圧症候群予防に効果的とされていますが、効果判定の指標がありません。これらも含めて今からディスカッションされていく分野だと考えています。

文責:川井清考(院長)

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