透明帯孵化補助(手技の詳細と論文紹介)

2020年4月25日(土)にwebにて培養士説明会「卵子と精子のおはなし」をさせて頂きました。説明会終了後、御参加頂いた方から「透明帯孵化補助」についての質問を頂きました。御参加・御質問、誠にありがとうございました。

「透明帯孵化補助」につきましては過去(2020年3月21日)のブログ記事に上げさせて頂いております。ご覧になっていない方は是非御一読ください。この記事の中で、受精卵にとって孵化は妊娠成立のために必須の過程であり、孵化補助はレーザーで透明帯の一部に穴を開けて孵化を補助する技術であることを解説致しました。
https://medical.kameda.com/ivf/blog/post_67.html

今回、頂いた質問は以下の通りです(概略)。
「別のクリニックの透明帯孵化補助は透明帯除去をするとの事でした。当院のレーザー加工(レーザーで透明帯の一部に穴を開けるのみ)とどのような違いがありますか?」
今回は、この御質問に回答する形で当クリニックの透明帯孵化補助法の詳細および論文紹介をさせて頂きます。

先ず、「透明帯除去」の方法をお示しします(図.透明帯除去の工程)。受精卵を9時方向から吸引保持して動かないようにします(a)。次いで、3時方向からレーザーを使って透明帯に穴を開けていきます(b)。可能な限り、透明帯の穴の範囲を広げていきます(c; 1時30分方向から7時30分方向にかけて開孔されているのがお分かり頂けると思います)。その後、受精卵を吸引保持から開放して(d)、受精卵の直径よりもやや大きいピペットの中に受精卵の出し入れをして(e)、透明帯を完全に除去します(f)。したがって、「透明帯除去」は「レーザー加工」により大きな穴を開けてから、「透明帯を取り外す」技術であることがお分かり頂けると思います。

図.透明帯除去の工程(Hiraoka K et al. Reprod Biomed Online. 2007 Jul;15(1):68-75.より一部抜粋)

Web説明会でお見せした当院の孵化補助後の写真がこちらです(図.透明帯の一部開孔)。2時30分方向から3時30分方向に掛けて透明帯の一部に穴が開いているのがお分り頂けると思います。説明会では分かりやすさを最優先するため、ここまでしか開孔していない写真をお見せしましたが、

図.透明帯の一部開孔

実際はここまで(12時方向から6時方向の半分)開孔しています(図.透明帯の半分開孔)。下の写真をWeb説明会で使用しなかった理由ですが、下のもの(図.透明帯の半分開孔)ですと穴が開いていることが分かりづらいのと、開孔する範囲ではなく透明帯を開孔していることさえ分かって頂ければよい、と考えていたからです。当クリニックでは透明帯全周の約半分の50%を開孔した後、透明帯の除去は「行っておりません」。

図.透明帯の半分開孔

話を整理致します。御質問頂いた、透明帯除去とレーザー加工ですが、細かく言うと、「透明帯除去」は「レーザー加工」後に「透明帯を除去」する方法で、当クリニックで実施している「透明帯の半分を開孔」は「レーザー加工」により「透明帯を半分開孔して除去せずそのまま」にする方法です。話を絞ると「透明帯除去」と「透明帯半分開孔」、いずれの方法がより妊娠率が高いのか?ということになると思います。以前、私が発表した論文2報分のデータを基に考察してみたいと思います。

先ず、1報目の論文では「透明帯の一部開孔」と「透明帯除去」した後の妊娠率・出産率を比較しました。

Zona pellucida removal and vitrified blastocyst transfer outcome: a preliminary study.
Hiraoka K, Fuchiwaki M, Hiraoka K, Horiuchi T, Murakami T, Kinutani M, Kinutani K.
Reprod Biomed Online. 2007 Jul;15(1):68-75.

胚移植後の成績比較(論文tableより一部改変)

透明帯孵化補助の方法 一部開孔 除去 有意差
移植周期数 45 57 -
妊娠率 19 (42) 38 (67) 0.014
出産率 16 (36) 32 (56) 0.039

「透明帯の一部開孔」の妊娠率は42%、「透明帯除去」の妊娠率は67%となり、「透明帯除去」の妊娠率が有意に高い値を示しました。「透明帯の一部開孔」の出産率は36%、「透明帯除去」の出産率は56%となり、「透明帯除去」の出産率が有意に高い値を示しました。

次いで、2報目の論文では「透明帯の一部開孔」と「透明帯の半分開孔」した後の妊娠率を比較しました。

Effect of the size of zona pellucida opening by laser assisted hatching on clinical outcome of frozen cleaved embryos that were cultured to blastocyst after thawing in women with multiple implantation failures of embryo transfer: a retrospective study.
Hiraoka K, Fuchiwaki M, Hiraoka K, Horiuchi T, Murakami T, Kinutani M, Kinutani K. 
J Assist Reprod Genet. 2008 Apr;25(4):129-35.

胚移植後の成績比較(論文tableより一部改変)

透明帯孵化補助の方法 一部開孔 半分開孔 有意差
移植周期数 40 31 -
妊娠率 17 (43) 23 (74) < 0.05
出産率 15 (38) 20 (65) < 0.05

「透明帯の一部開孔」の妊娠率は43%、「透明帯の半分開孔」の妊娠率は74%となり、「透明帯の半分開孔」の妊娠率が有意に高い値を示しました。「透明帯の一部開孔」の出産率は38%、「透明帯の半分開孔」の出産率は65%となり、「透明帯の半分開孔」の出産率が有意に高い値を示しました。

1報目の「透明帯除去」の妊娠率は67%、2報目の「透明帯の半分開孔」の妊娠率は74%となり、透明帯を除去しなくても、透明帯を半分開孔するだけで十分であることがお分かり頂けると思います。したがって、当クリニックの透明帯孵化補助では「透明帯の半分開孔」を実施しております。

文責:平岡(培養室長)

このあとの培養士説明会(web配信)「卵子と精子のおはなし」の予定です。
■5月30日(土) 18:00~19:00(60分)
■6月27日(土) 18:00~19:00(60分)
前回聴き逃してしまった方、ご興味のある方はぜひ受講いただければと思います。
https://medical.kameda.com/ivf/info/news/detail/515.html

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。