胚異数性に男性側で影響を与える因子は?(論文紹介)
胚の異数性の議論になった時には、女性年齢ばかりがフォーカスされて話されることが多いのが実情です。では、男性年齢、男性BMI、精液所見が胚の異数性と関連するかどうか調べた報告をご紹介致します。
≪ポイント≫
今回の報告では、男性年齢、男性BMI、精液所見は、胚の異数性との関連は現在のところ乏しいが、今後の同様の報告を踏まえた判断が必要である。
Marissa L Bonus, et al. Fertil Steril. 2022. DOI: 10.1016/j.fertnstert.2022.04.020
2015年-2020年にかけて、453体外受精周期(1,720胚)に女性・男性の遺伝情報を用いたSNPsマイクロアレイを行いPGT-Aを実施しました。女性年齢 36.5±3.5歳、男性年齢 39.5±5.5歳、女性BMI 24.7±5.0 、男性BMI 27.6±4.3。男性由来の胚異数性は8.4%(144/1,720)個の胚に認められました。男性BMIが記録されている胚は1,533個でした。男性由来の胚異数性は、BMIグループ間で同程度でした(BMI 18-24.9 :7.2%(基準値)、BMI 25-29.9:8.4%(OR, 1.12; 95%CI, 0.79-1.82); BMI >30 :9.1%(OR, 1.31; 95% CI, 0.83-2.08 ))。精液所見が正常であった胚が854個、異常のあった胚が866個でした。精子濃度、総精子数、運動率、前進運動率、正常形態率では胚異数性に差を認めませんでした。50歳未満男性と50歳以上男性の間で胚の異数性率は同等でした(OR, 1.69; 95% CI, 0.96-2.98)。
≪私見≫
男性由来の胚の異数性率を評価した研究はほとんどありません。
Sillsらは男性由来の異数性率を36.6%と報告していますが、3日目胚の割合が86%と高かったため現在の胚盤胞生検における胚異数性率より高いのかもしれません。
もう一つの報告のKubicekらは男性由来の異数性率を9.9%と報告しており、今回の報告と同様の割合ですので一定のコンセンサスなのかもしれません。(Sills ES, et al. Mol Cytogenet 2014, Kubicek D, et al. Reprod Biomed Online 2019)
男性因子が胚異数性に影響を与える割合は8-9%前後ですが、受精割合、胚発生割合など様々な部分に影響を与えます。今回は有意差がつきませんでしたが、95%CIやORをみてもらうと議論の余地ある結果と解釈される方も少なくないと思います。男性年齢・男性肥満が体外受精結果に影響を与えるという報告は増えてきており、今後も注視していくテーマのひとつと考えています。
このテーマは私の学位論文のテーマでした。
いろいろな方々に支えながら学位を取得し、私の礎となっています。臨床現場にどのように還元できるか日々推敲しながら医療に向き合っていきたいと思います。
文責:川井清考(院長)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。
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