着床不全に対する低分子ヘパリン投与のメリットについて(論文紹介:否定派)

体外受精での低分子ヘパリン使用は、複数年にわたり検討されてきています。
使用法には2つの目的があります。1つめはOHSSやその他の血栓症リスク女性の血栓症を予防する目的で、2つめは反復着床不全患者の妊娠成績を改善させる目的です。

大規模スタディーが数多くあるわけではなく参考となる論文が限られています。
低分子ヘパリンの移植時の着床率改善の仕様については、①全症例でのルーチン使用にメリットはない、②凝固因子異常がない反復着床不全患者での使用は懐疑的、③凝固因子異常ある反復着床不全患者には使用を検討する、というのが大きな流れのような感じがします。
否定派の論文が下記となります。

≪論文紹介≫

①全症例でのルーチン使用にメリットはない

Lodigiani C, et al. Thromb Res. 2017. DOI: 10.1016/j.thromres.2017.08.006
低分子ヘパリン(パルナパリン)が体外受精の成績に影響を与えるかどうかを検討した前向き研究です。初回または2回目の体外受精を行った女性247名の271周期を解析しました。血栓症や自己免疫疾患をもつ女性は対象外とし、パルナパリンを投与する群と、コントロール群に無作為に割り付けました(1:1)。主要評価項目は臨床妊娠率,副次的評価項目は着床率と出生率としました。
結果:
臨床妊娠率および出生率は、治療群と対照群で同等でした(21.5%vs. 26.7%、p=0.389;18.5% vs. 20.6%、p=0.757)。流産率も差がありませんでした(10.3% vs. 22.9%、p=0.319)。35歳以下、36~38歳、39~40歳のサブグループ分析でも臨床妊娠率(22.5% vs. 38.8%、p=0.124;21.8% vs. 17.3%、p=0.631;19.4% vs. 23.3%、p=0.762)と出生率(16.3% vs. 32.7%、p=0.099;20.0% vs. 13.5%、p=0.443;19.4% vs. 13.3%、p=0.731)ともに差がありませんでした。

②凝固因子異常がない反復着床不全患者での使用は懐疑的

Siristatidis C, et al. Gynecol Endocrinol. 2018.
反復着床不全の対象者に、①低分子量ヘパリンとプレドニゾロン投与群 57名、②無投与群 58名にわけ臨床妊娠率を主要評価項目と検討しました。
患者平均年齢は35歳前後、ロング法もしくはアンタゴニスト法での新鮮胚移植(平均2個以上の初期分割期胚)としています。
結果:
生化学妊娠率および臨床妊娠率は両群で同等でした(23/57(40.4%)vs.14/58(24.1%)、および17/57(29.8%)vs.11/58(19%)、それぞれp=0.063、0.175)。流産率も両群間で同等であり(35.7%vs.34.8%)、出生率も同様でした(15/57(26.3%)vs.9/58(15.5%)、p=0.154)。

文責:川井清考(院長)

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