原因不明不妊に対するCC、AI、ゴナドトロピン注射と人工授精の費用分析(Fertil Steril. 2024)
【はじめに】
卵巣刺激と関連する臨床妊娠率や多胎妊娠のリスクについては十分に研究されているものの、これらの治療の相対的な費用、特に多胎妊娠とそれに伴う母体・新生児合併症を考慮した場合の費用については不明な点が残されています。原因不明不妊に対するクロミフェン(CC)、レトロゾール(AI)、ゴナドトロピン(GN)と人工授精の費用分析において、多胎妊娠とその関連合併症を含めた包括的な評価したAMIGOS試験の二次解析をご紹介いたします。
【ポイント】
ゴナドトロピン併用人工授精周期では単胎・双胎の生児出生費用がクロミフェンやレトロゾールより7,000ドル以上高く、品胎以上では費用が劇的に増加するため、原因不明不妊治療における排卵数をしっかり管理しないゴナドトロピンの使用を控えるべきです。
【引用文献】
Cardozo ER, et al. Fertil Steril. 2024 Apr;123(4):721-723. doi: 10.1016/j.fertnstert.2024.10.032.
【論文内容】
この研究は、原因不明不妊カップルに対するクロミフェン(CC)、レトロゾール(AI)、ゴナドトロピン(GN)と人工授精の費用分析を行うことを目的としています。2015年のAMIGOS試験の妊娠転帰データを用いて、公的に利用可能なコスト資料から費用データを取得し、単胎、双胎、品胎以上の多胎妊娠に関連する母体・新生児ケアと合併症を含めて評価しました。TreeAge Pro Healthcare 2021ソフトウェアを用いた決定分析モデルを作成し、原因不明不妊カップルに対するCC、AI、人工授精治療転帰を比較しました。すべての費用は2022年の米国ドルに調整されています。
結果:
CC併用人工授精およびAI併用人工授精の単胎生児獲得推定費用は41,320ドル、双胎妊娠生児獲得費用は155,653ドルでした。GN併用人工授精の単胎生児獲得推定費用は48,650ドル、双胎妊娠生児獲得費用は162,983ドル、品胎以上多胎妊娠生児獲得費用(GNコホートでのみ発生)は552,837ドルでした。GN併用人工授精は、経口薬と比較して注射薬の費用が高いため、CCやLTZ GN併用人工授精より高額でした。単胎と双胎・品胎以上妊娠では周産期管理費用に著しい差が認められ、これは母体胎児モニタリングの頻度増加と周産期合併症管理によるものです。さらに、単胎から双胎、品胎以上妊娠へと移行するにつれて生児獲得費用の指数関数的増加が認められ、これは胎児数の増加に伴うより複雑な分娩・産褥ケアおよび新生児集中治療室入院の可能性の高さを反映しています。
【私見】
AMIGOS試験では、GN併用人工授精が単胎生児率を改善しないにも関わらず多胎妊娠リスクを増加させることが示されており、今回の費用分析はその使用に疑問を投げかけています。米国では卵巣刺激併用人工授精が品胎以上妊娠の39-67%に寄与しています。
元論文はNEJMです。
Diamond MP, et al. N Engl J Med. 2015;373(13):1230-40. doi: 10.1056/NEJMoa1414827.
ゴナドトロピン併用人工授精は多胎妊娠率32%、CC/AI併用人工授精は多胎妊娠率9-13%でした。ちなみに排卵個数は書かれていません。妊娠するまでの周期数はCC: 平均3.1周期、AI: 平均3.1周期、Gn: 平均2.8周期でこちらも費用計算には含まれています。費用対効果の差は、薬剤費自体が高額、多胎妊娠率の増加により高額な合併症管理費用、NICU入院率の増加による新生児ケア費用となっています。
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文責:川井清考(院長)
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