PGT-SR 実施患者のICSI後0PN/1PN胚盤胞結果(BMC Pregnancy Childbirth. 2025)
【はじめに】
体外受精では受精後16~18時間に2つの前核(2PN)の出現によって正常受精が確認されます。しかし、前核が確認できない(0PN)または1つしか確認できない(1PN)胚が一定頻度で観察され、その報告頻度はそれぞれ11.3~20%、1.6~7.7%とされています。これらの胚は異常受精と位置付けられます。PGT-SR実施患者において、0PNおよび1PN由来の胚盤胞結果を調査した報告をご紹介いたします。
【ポイント】
PGT-SR 実施患者のICSI後0PN/1PN胚盤胞結果を見ると、特に0PN胚を優先して移植を検討しうる胚である可能性が示唆されます。
【引用文献】
Jingzhen Wang, et al. BMC Pregnancy Childbirth. 2025 May 3;25(1):530. doi: 10.1186/s12884-025-07621-0.
【論文内容】
PGT-SRを受ける患者において、0PN/1PNから胚盤胞になった場合に有用かどうかを評価するレトロスペクティブ研究です。2018年10月から2020年12月までに中国生殖医療施設にて転座保因者357カップル422ART4,902個ICSIを対象としました。MII卵子4,868個中、54周期(12.8%)において、0PNおよび1PN胚由来の胚盤胞に対してPGT-SRを実施しました。343個の胚に対して包括的なゲノムハプロタイピングが行われ、そのうち0PN由来が33個、1PN由来が36個、従来の2PN由来が274個でした。
結果:
2PN胚と比較して、0PNおよび1PN胚の胚盤胞への発育率は有意に低く(5.41%、21.56% vs 56.51%、p値<0.001)でした。genome-wide ploidy and haplotyping検査の結果、0PN胚盤胞の正倍数性率は2PN胚盤胞と統計的に有意差がなかったものの(18.18% vs 33.21%、p値=0.111)、1PN胚盤胞では有意に低い結果となりました(11.11% vs 33.21%、p値=0.004)。
単為発生割合は1PN胚で38.89%(36個中14個)と高く、0PN胚では3.03%(33個中1個)とわずかでした。一方、2PN胚では単為発生は見られず、0.73%(274個中2個)が三倍体でした。興味深いことに、0PNと1PN胚では三倍体は検出されませんでした。
0PNと1PN胚盤胞を含む54周期では、これらの胚を含めることで凍結胚数、移植可能胚数、移植された胚数、および移植を受けた患者数が増加しましたが、これらの変化は統計的に有意ではありませんでした。移植された5個の0PN・1PN胚からは3生児が得られ、出生率は60%でしたが、全体の出生率に有意な影響はありませんでした(56.36% vs 56.67%、p値=0.974)。
【私見】
本研究で使用されたgenome-wide ploidy and haplotypingは、SNP情報を活用して各染色体の親由来を特定できるため、単為発生、二倍体、三倍体などの状態を高精度で区別することができます。これは従来のPGT-SRでは得られない重要な情報です。
今回、PGT-SRで検討された理由は、異数性が通常より発生率が高いからこそ、異常受精でも正常核型胚であれば胚移植を検討することも考慮すべきという文調です。
それはともあれ、1PN、0PNの単為発生、3倍体発生率がわかる良い報告だと思います。
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文責:川井清考(院長)
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